統率力を表現する方法は、もちろん十人十色だ。4人の日本代表監督のもとでキャプテンを務めてきたMF長谷部誠(フランクフルト)は、真面目で誠実な人柄でチームメイトたちをけん引してきた。
後半アディショナルタイムの失点でワールドカップ出場を逃した、いわゆる「ドーハの悲劇」で日本代表を率いたDF柱谷哲二(前水戸ホーリーホック監督)は、チームを激しく叱咤する姿から「闘将」と呼ばれた。
Jクラブに目を移せば、中村俊輔(横浜F・マリノス)や遠藤保仁(ガンバ大阪)の両ゲームメーカーは、卓越したテクニックと独特の存在感でチームに安心感を与えてきた。
ならば、史上初となる無敗のままでファーストステージの頂点に立った、浦和レッズのMF阿部勇樹は何をもって個性派軍団を束ねてきたのか。
■寡黙で恥ずかしがり屋、目立たない存在
普段は驚くほど寡黙で、極端な恥ずかしがり屋だと自任する。集団のなかでほとんど目立たないし、すすんで目立とうともしない。
そんな男が何かに駆り立てられるように埼玉スタジアムのゴール裏のスタンドへ迫り、右手のひと差し指を突き立てながら叫び声をあげたのは3月4日の夜だった。
「まず勝たなきゃだめなんだよ!オレたちやるから!だから一緒に闘ってよ!」
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阿部勇樹
その日に行われたブリスベン・ロアー(オーストラリア)とのACLグループリーグ第2戦で、レッズはキックオフ直後に喫した失点を取り返せないまま苦杯をなめていた。
敵地で2月25日に行われた水原三星(韓国)とのACLグループリーグ初戦、同28日のガンバ大阪とのゼロックス・スーパーカップに続く公式戦3連敗。さかのぼれば昨シーズンも、優勝に王手をかけてから3試合連続で白星から見放され、ガンバに主役の座を奪われていた。
失望感を募らせたゴール裏のサポーターから、ブーイングとともに厳しい言葉が飛んでくる。テレビ局のインタビューを受け、遅れて試合後の挨拶に加わった阿部は黙っていられなかった。
「とにかく、1勝しなきゃ始まらないんだよ!次は絶対に勝つから!」
声が届かないとみるや、スポンサーボードを乗り越えてスタンドの真下まで移動。思いの丈を訴えるキャプテンの目は涙でにじんでいた。
【阿部勇樹に導かれた浦和レッズの無敗ステージ優勝 続く】