【THE REAL】柏レイソルの小さな巨人・中川寛斗が輝く理由…献身的なプレーに導かれる不敗神話 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【THE REAL】柏レイソルの小さな巨人・中川寛斗が輝く理由…献身的なプレーに導かれる不敗神話

オピニオン コラム
柏レイソル イメージ
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先発フル出場すれば負けない不敗神話


柏レイソルで「不敗神話」が継続されていることをご存じだろうか。身長155センチの現役最小兵Jリーガー、中川寛斗が先発フル出場した公式戦では、実は昨年5月から9勝2分けの星を残している。

今シーズンに限れば、J1では5戦全勝。レイソルが破竹の8連勝をマークし、首位を快走した前半戦では、183センチのクリスティアーノと身長差28センチの2トップを組んで主役の一人を演じた。

迎えた10月25日の天皇杯全日本サッカー選手権大会準々決勝。敵地・等々力陸上競技場のピッチ上でキックオフの笛を聞いた中川は、約4ヶ月半ぶりに試合終了の瞬間までボールを追い続けた。

「言われてみれば、確かにそうかもしれないですね。90分間出ることに意味がありますし、何よりも勝つことに意味があったので。ただ、至らない点がまだまだあるので、そこは意識していかないと」

結果は1‐0の勝利で「不敗神話」を伸ばした。後半16分に決まったクリスティアーノの25メートル弾を守り切り、J1で2位につけ、YBCルヴァンカップでは決勝へ進んでいるフロンターレの国内三冠独占の夢を断った。

ベスト4進出をかけた大一番で、下平隆宏監督から先発を託された意味は理解している。フロンターレは相手を握り倒す、要はボールを保持し続け、その結果として相手に生じる隙を巧みに突いてくる。

勝利するには可能な限りボールを早く奪い、そして可能な限り自分たちでポゼッションする戦い方が求められる。両方を実践できる選手こそが、小さな体に無尽蔵のスタミナとテクニックを同居させる中川だった。

「僕が出たときにはやることが決まっているので、まずはそれを意識していました。監督からは『ボールを大事にしよう』とも言われているので、今日の試合を見てもわかるように、かなり丁寧にビルドアップしていた部分は評価されるべきところなのかなと思います」


中学3年生で受けたカルチャーショック


相手ボールのときのポジションはフォワードとなる。相手のボールホルダーへ献身的に、豊富な運動量を駆使してプレッシャーをかけ続けるが、直接ボールを奪うよりも重きを置いている部分がある。

プレッシャーをかけることによって相手にやや雑に蹴らせ、状況判断力や察知能力、何よりもボール奪取力に優れたセンターバックコンビ、21歳の中谷進之介と20歳の中山雄太を中心に回収させる。

J1戦線の前半を席巻できた理由を、下平監督に聞いたことがある。柏レイソルU‐18監督など下部組織の指導者を歴任し、昨シーズンの開幕直後から指揮を執る45歳の青年監督はこう説明してくれた。

「僕が『前からいけ』とやらせているのではなくて、チームとしてボールをもち続けたい、そのためにできるだけ早くボールを奪い返したいという意思のもとで、選手たちが率先して相手のビルドアップを阻止するために、どんどんプレッシャーをかけにいっているんですよ」

そして、マイボールになった瞬間に、Jリーグへの登録上ではミッドフィールダーの中川のポジションは「フリー」となる。あらゆるスペースに顔を出し、ボールを受け、キープしては周囲にさばく。

ボールポゼッションには、絶対的な自信を寄せている。原点は柏レイソルU‐15の最上級生になった2009年。現在はヴァンフォーレ甲府を率いる吉田達磨監督から、数枚のDVDを手渡された。

そこには当時のFCバルセロナで、究極のポゼッションサッカーを具現化させていた2人のスーパースター、シャビ・エルナンデスとアンドレス・イニエスタのプレーが中川のために編集されていた。

「ポゼッションにおいて、ポジションを取る位置の手本ということで渡されました。それまではドリブルが大好きな子どもでしたけど、自分が本当に進むべき道をタツさんが敷いてくれた気がしました」


心の化学変化を導いた湘南ベルマーレへの移籍


2010年にU‐18へ昇格すると、アカデミーダイレクターに就任した吉田氏の号令のもと、ボールを大事にするポゼッションサッカーがアカデミー全体で、レイソルの礎として共有された。

ただ、トップチームへの昇格だけはかなわなかった。当時指揮を執っていたネルシーニョ監督(前ヴィッセル神戸監督)が頑に首を縦に振らない。背が低いことが、唯一にして絶対的な理由だった。

だからといって手放すには、その才能はあまりにも惜しい。レイソルの強化部は中川をトップチームに昇格させたうえで、2013シーズンからJ1へ昇格する湘南ベルマーレへ期限付き移籍させる。これが転機になった。

「サッカー観が180度変わりましたよね。背が低いからこういうプレーしかできないと、僕自身が勝手に限界を決めていたので」

いまもベルマーレを率いる曹貴裁(チョウ・キジェ)監督が次々と浴びせてきた厳しい言葉が、心のなかに化学変化を引き起こした。在籍した2年間で、上手いだけではなく、走れて戦える選手に変貌を遂げた。

フロンターレとの天皇杯準々決勝には、曹監督も視察に訪れていた。恩師の目の前で守備のスイッチ役を務めあげ、マイボールになるやポゼッションの一翼を担った。それでも、中川は満足できない。

「相手の脅威になるプレー、たとえばクロスに対してどこに飛び込んでいくのか、といったことも大事にしないと。サッカーはやっぱりボールをゴールネットに入れる回数を競うスポーツなので」

左右からのクロスに対して、何度もゴール前に顔を出した。今シーズンのJ1では3ゴールを奪っているが、そのうち2点は頭で決めた。ポジショニングが身長差を埋めると信じて必死に走り回る。

ミドルシュートも2発放った。ひとつはフロンターレのGK新井章太に防がれ、もうひとつはバーを大きく超え、試合後には「相変わらずミドルシュートは下手ですね」と自虐的に苦笑いした。


子どもたちに夢を与えるプレースタイル


今シーズンのJ1を振り返れば、8月に入ると先発メンバーから姿を消しただけではなく、ベンチにすら入らなくなった。限界まで走り回るがゆえに、酷暑で体調を崩したのか。中川は一笑に付した。

「それはないです。コンディションはずっといいので」

後半戦に入って、レイソルは相手に研究された。7月を1分け2敗と未勝利で終えたことで、下平監督はディエゴ・オリヴェイラ、ハモン・ロペスの両FWら個の力で局面を打開する戦い方に変えた。

弾き出された形となった中川は、決して腐ることはなかった。ミルトン・メンデス前監督が指揮を執った昨シーズンの開幕直後も、体のサイズを理由に実質的に干された経験が生きたと屈託なく笑う。

「去年も腐らずに、課題やプラスアルファの部分で、客観的に自分を見つめ直すことができた。僕としてはその期間を非常にポジティブにとらえていて、それが今日の結果にもつながっていると思います」

J1で3試合続けて勝ち星から遠ざかり、5位に後退したチームにカンフル剤を打ちたかったのか。下平監督は戦い方を前半戦の好調時のそれに戻し、キーマンを演じてきた中川をフル出場させた。

その結果として手にした、2大会ぶりとなる天皇杯ベスト4の座。レイソルは勢いも新たに、ホームの日立柏サッカー場で再びフロンターレと対峙する、29日の明治安田生命J1リーグ第31節に臨む。

「次で僕がチョイスされたら今日の結果を過信することなく自分のプレーをしたいし、違う選手が出てももちろん強みが出る。監督が求めることを遂行して、結果につなげていくことが僕たちの仕事なので」

小さな体で大男たちを翻弄する姿は、将来のJリーガーを目指す子どもたちの憧れにもなっている。レイソルを輝かせる“小さな巨人”は愚直に、そして未来をまっすぐに見つめながら走り続けていく。
《藤江直人》

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