【THE REAL】日本代表・乾貴士が存在感を増す理由…スペインの小さな街で思い出した楽しさ | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【THE REAL】日本代表・乾貴士が存在感を増す理由…スペインの小さな街で思い出した楽しさ

オピニオン コラム
乾貴士 参考画像
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スペイン北部の小さな街で出会えた理想の日々


プロサッカー選手になった2007年からの11年間で、日本を含めて3ヶ国、5つの街を渡り歩いてきた。日本では横浜および大阪という大都市で、何ひとつ不自由のない生活を送るこができた。

念願の海外デビューを果たしたドイツのボーフムは、人口約36万人の工業都市。次に移ったフランクフルトはドイツ第5の都市で、人口もボーフムのほぼ倍。街中には日本食レストランも数多い。

それでも、乾貴士は周囲を山々に囲まれた人口わずか2万7000人のスペイン北部の小さな街、エイバルでの日々を満喫している。この地をホームとするクラブに加入して、3シーズン目を迎えた。

「スペインでプレーしたいと、小さなころからずっと夢見てきた。本当に憧れ通りだったというか、上手い選手が大勢いるし、すごく楽しくできているし、何の不満もありません。ここで長くサッカーができたら、自分のサッカー人生で最高の宝物になると思っているくらいなので。

ドイツではストレスを感じながらプレーしていたし、そういう点でも全然違う。スペインのなかでも珍しいと言われるほどファミリー感のある、すごく雰囲気のいいチームなので。チームメイトたちとよくご飯も食べに行くし、よく絡んでくるし、ホントにいいやつらばかりなんですよ」

クラブ創設は1940年ながら、リーガ・エスパニョーラ1部における歴史はまだ4年目。本拠地エスタディオ・ムニシパル・デ・イプルーアのキャパシティーは、わずか6200人あまりだ。

もちろん日本食のレストランなどない。家族を日本に残し、単身赴任のかたちでプレーしている29歳のアタッカーは、それでも「自分のサッカー人生で、一番楽しい時期をすごせている」と笑う。

「特に昨シーズンは、ものすごくいい1年になった。楽しくプレーできることが、やっぱりサッカー選手にとってはベストだと思うので」

スペインで充実した時間を過ごす
(c) Getty Images


激しさを増す左ウイングのレギュラー争い


心技体の充実ぶりは、日本代表におけるパフォーマンスにも波及効果を及ぼしている。6月シリーズで約2年2ヶ月ぶりに日の丸を背負った乾は、時間の経過とともにその存在感を大きくしている。

バヒド・ハリルホジッチ監督が指揮を執って2戦目となる、2015年3月31日のウズベキスタン代表との国際親善試合で先発。後半18分までプレーしてからは、長い空白期間が生じてしまった。

その間の同年8月には、ブンデスリーガ1部のアイントラハト・フランクフルトからSDエイバルへ完全移籍。夢をかなえた喜びに体を震わせながら、雌伏して時の至るを待つ心境を貫き通した。

「2年とちょっとの間は代表に呼ばれなかったけど、代表に選ばれるかどうかは監督次第なので、特に気にしていなかったですね。まずはチームで結果を出す、ということだけを考えていたので」

そして、昨シーズンの最終節で見せた圧巻のパフォーマンスが、ハリルホジッチ監督を再び振り向かせた。FCバルセロナから奪ったゴール、それも左足ボレーによる2発はそれほど衝撃的だった。

「ここ最近は素晴らしいパフォーマンスを見せてくれている。ロジカルな選出だと思う」

乾を復帰させた際の指揮官の説明だ。同時に宇佐美貴史(アウグスブルク)が選外となり、メンバーのなかに必ず一人は加えられてきた、個の力で局面の打開を託されるジョーカー役をも拝命した。

主戦場は左ウイング。アジア最終予選を通じて存在感を発揮した原口元気(ヘルタ・ベルリン)に加えて、10月シリーズでは武藤嘉紀(マインツ)もポジション争いに参戦したが、乾は自然体を貫く。

「一人ひとりタイプが違うので、それぞれが特徴を出せればいいんじゃないかと。誰が試合に出て、誰が得点しようがかまわない。とにかくチームが勝つこと。それに越したことはないので」

ハリルホジッチ監督も乾のパフォーマンスには目を見張る
(c) Getty Images


共演を熱望する香川真司との“すれ違い”


ハリルジャパンの勝利を何よりも第一に考えれば、ニュージーランド、ハイチ両代表と対峙した10月のキリンチャレンジカップ2017は、乾にとって喜びと悔しさが入り混じったものになった。

豊田スタジアムで6日に行われたニュージーランド戦は、後半25分から武藤に代わって途中出場。終了間際に左サイドから絶妙のクロスを上げて、MF倉田秋(ガンバ大阪)の決勝点をお膳立てした。

「あれはホンマ、適当にあげました。デカい(杉本)健勇が入っていたので、あのくらいの高さに上げておけば誰かが合わせてくれるかなと。(酒井)宏樹もよく入ってきてくれたし、(倉田)秋もしっかりとゴールを決めてくれたので」

クロスはゴール前に詰めていたFW杉本健勇(セレッソ大阪)らを通り越したが、ファーサイドへ駆けあがっていたDF酒井宏樹(オリンピック・マルセイユ)が完璧なタイミングで折り返す。

ワンバウンドしたボールに低空のダイビングヘッドを見舞い、待望の代表初ゴールでチームを勝利に導いた倉田、そして杉本はセレッソ時代のチームメイトでもあった。

「秋とは一緒にプレーしたけど、健勇とはあまり。3人で一緒にやるのは今日が初めてですかね」

実はもう一人、共演を熱望する盟友がいた。横浜F・マリノスから出場機会を求めてセレッソへ加入した2008年6月。試合を重ねるごとに輝きを増す、まだ19歳だったMF香川真司と出会った。

しかし、ハリルジャパンに復帰してからは“すれ違い”が続いていた。6月のシリア代表との国際親善試合で乾が途中出場したとき、前半早々に左肩を脱臼した香川はすでにピッチを去っていた。

先発を果たした8月のオーストラリア代表とのワールドカップ・アジア最終予選では、井手口陽介(ガンバ大阪)にポジションを奪われるかたちで、香川はリザーブのまま勝利を見届けている。


ロシアのヒノキ舞台で眩い輝きを放つために


ニュージーランド戦では、乾が投入される10分前に香川はベンチへ退いていた。試合後には「ホンマに一緒にやりたいんですけどね。ちょっと監督にお願いしてみます」と苦笑いしたほどだ。

迎えた10日のハイチ戦。2‐2の同点に追いつかれた直後の後半14分に、待望の瞬間が訪れる。倉田に代わって香川が投入され、先発していた乾とともに日産スタジアムのピッチに立った。

香川真司と同じピッチに
(c) Getty Images

試合は同33分にハイチに逆転を許し、直後に乾は武藤との交代を告げられた。21分間の競演で魅せた場面もあった。ゴールまで約25メートルの距離で獲得した、29分の直接フリーキックのときだ。

ボールの近くに立つのは3人。まず原口が動き、ヒールで後方の乾に軽く流す。その間に香川は壁の左を通過して、ゴール前へ走り込もうとしていた。すかさず乾が浮き球のパスを送る。

ハイチの選手が必死に戻ってカットしたが、遊び心が満載された“あうんの呼吸”にスタンドは沸いた。香川のゴールで何とか引き分けた試合後。自らに言い聞かせるように、乾は決意を新たにした。

「先発だと役割が違う。守備も含めたバランスも考えなきゃいけないので。たとえばオーストラリア戦では先発した自分がバテたとしても、途中から(原口)元気が出ればいいと考えていた。そこで点を取れれば、日本が勝てると思っていたので。

これが途中出場だと、点を取るという監督のサインでもあるので。守備は(井手口)陽介たちにある程度任せて、自分は高い位置で攻撃に重心を置く。ニュージーランド戦では先発したヨッチ(武藤)があれだけ走って、裏を狙ってくれたおかげで相手もバテていたので」

左ウイングのファーストチョイスとして、あるいはジョーカーとして。出場すれば初めてとなるワールドカップで香川とともに輝くために、乾はスペインの地でさらなる“楽しみ”を追い求めていく。
《藤江直人》

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