【THE ATHLETE】80年代の革命がもたらした奇跡…スラム街から誕生したNFL選手マイケル・オアー | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【THE ATHLETE】80年代の革命がもたらした奇跡…スラム街から誕生したNFL選手マイケル・オアー

オピニオン コラム
マイケル・オアー(c)Getty Images
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2009年に公開された映画『しあわせの隠れ場所(原題:ブラインド・サイド)』を覚えている人はいるだろうか。

父親に棄てられ、ドラッグ中毒だった母親からも幼少期に引き離されたマイケル・オアーが、アメリカンフットボール選手として才能を開花させドラフト1巡目(全体23位)で指名されるまでの実話を基にした作品だ。

◆オフェンスタックル(OT)の役割

この映画は非常に示唆的な導入で始まる。1985年のニューヨーク・ジャイアンツ対ワシントン・レッドスキンズの映像が流れる後ろで、サンドラ・ブロックが「フットボールで1番の高給取りはクォーターバック(QB)だが、2番目は意外と知られていない」と語る。そのポジションこそオアーが守るオフェンスタックル(OT)だ。



フットボールの基本的な陣形はオフェンス、ディフェンスが前線へ横一列に選手を配し、その後ろや横にそれぞれの役割を持ったポジションの選手がつく。前線で押し合う選手はラインマンと呼ばれる。攻撃側ならオフェンスライン、守備側ならディフェンスライン。

OTはラインの外側に位置し、センター(C)がスナップしたボールをキャッチしたQBが、パスターゲットを探すまでディフェンスの侵攻を食い止め、ランなら走路を確保する。パスの比重が増している昨今ますます重要な役割となっている。

◆伝説的ラインバッカー、ローレンス・テイラーが再起不能に

OTの地位を飛躍的に向上させる出来事が80年代に起こった。前述のジャイアンツ対レッドスキンズ戦。ジャイアンツの伝説的なラインバッカー(LB)ローレンス・テイラーが、レッドスキンズのQBジョー・サイズマンを骨折させ再起不能にしたのだ。

優秀なQBは代えの利かない宝だ。彼らをディフェンスの激しい当たりから守るため、フットボール関係者はOTに守備の要となる選手を置くようになった。

特に右足を引き半身で構えながらパスターゲットを探すQBは左側面が死角になりやすい。ブラインド・サイドからの一撃を防ぐため、左OTはオフェンスラインの最重要補強ポジションとなった。



映画の最後、サンドラ・ブロックがテイラーに謝辞を捧げたのは、彼の存在が切っ掛けとなりオアーのような選手が高く評価される時代になったことを意味する。

オアーが成功した裏には80年代のフットボール革命があった。

◆神に選ばれた「フィジカルエリート」

OTはサイズと敏捷性の両方が求められる。身体の大きさだけは、どんな名コーチも教えることができない先天的な要素だ。身長195センチ、体重140キロ程度の体格。かつ40ヤード4秒台で走るラッシャーに振り切られない小回りの良さ。

将来NFLで活躍するOTは、幼少期から地区では名の知れたアスリートであることが多い。有名大学は中学時代から彼らに目を着け、リクルート活動を開始する。スポーツ大国アメリカでもNFLのOTになれるのは、神に選ばれた一握りのフィジカルエリートだけだ。



オアーも193センチ、143キロのサイズながら40ヤードを5秒台前半で走る。

レイブンズに1巡目指名されプロ入りしたオアーは、1年目からレギュラーの座を掴む。2012-13シーズンには47ersを破りスーパーボウルを制した。フットボーラーとしては最高の栄誉のひとつとされるリングを手にしたが、右OTでの起用が多くブラインド・サイドでは苦戦が続く。

◆テネシー・タイタンズと4年総額2000万ドルで契約

映画で試合中サンドラ・ブロックがコーチに「パスではなくランで攻めろ」と電話を掛けるシーンあるが、オアーの弱点とされるのは、実はパスプロテクションなのだ。高いフィジカルを活かしたランブロックは評価されているが、パス攻撃で相手ディフェンスにサックを許してしまう。この点が左OTに定着できなかった理由だろう。

2014年にレイブンズからフリーエージェントとなったオアーだが、同年テネシー・タイタンズと4年総額2000万ドルで契約。


テネシー州メンフィスのスラム街で生まれ育ち、テューイ夫妻の家に引き取られることでフットボールと出会った少年は、プロのフットボーラーとして故郷に凱旋した。

今年もスーパーボウルを目指し真冬の熱戦が繰り広げられている。昨年スーパーボウルの全米視聴率は、スポーツイベントでは断トツの46.7%を記録。NBAファイナル(9.3%)、ワールドシリーズ(8.2%)を大きく引き離した。

ひとつのチームが長期政権を築けないよう、リーグは様々な策を講じている。現在までに3連覇したチームはなく、近年は連覇すら出ていない。今年その難行に挑むのはシアトル・シーホークス。昨年覇者は今年もプレイオフに残ってきた。

今年の注目はAFC第1シードのニューイングランド・ペイトリオッツ。近年不調が続いたQBトム・ブレイディが復調気配を見せる。シーズン終盤やや失速したようにも見えたが、プレイオフに向け気合いを入れ直してくるはずだ。

2004-05シーズンのペイトリオッツ以来となる連覇か、他のチームが阻止するか。2月まで週末は目の離せない試合が続く。

Michael Oher - facebook
Michael Oher (@MichaelOher) | Twitter
《岩藤健》

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