新連載【THE ATHLETE】ステロイド全盛時代の異次元投手、ペドロ・マルティネスは殿堂入りに値するか | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

新連載【THE ATHLETE】ステロイド全盛時代の異次元投手、ペドロ・マルティネスは殿堂入りに値するか

オピニオン コラム
ペドロ・マルティネス 2004年6月13日(c)Getty Images
  • ペドロ・マルティネス 2004年6月13日(c)Getty Images
  • ランディ・ジョンソン 2001年11月3日(c)Getty Images
  • ペドロ・マルティネス 2004年10月18日(c)Getty Images
  • ペドロ・マルティネス vs 松井秀喜2009年10月29日(c)Getty Images
  • ペドロ・マルティネス vs 松井秀喜 2009年10月29日(c)Getty Images
  • マーク・マグワイヤ 1998年7月11日(c)Getty Images
  • サミー・ソーサ 1998年8月18日(c)Getty Images
  • バリー・ボンズ 2006年5月9日(c)Getty Images
全米野球記者協会は11月26日、2015年の殿堂入り候補34人を発表した。これまで殿堂入りを見送られてきた常連に、新たに資格を得た17名で構成される。

同協会に10年以上席を置く記者の投票により、75%以上の得票率を得た選手が野球殿堂入りとなる。

特徴としては、資格取得した初年度は、得票率が伸びにくい傾向が挙げられる。現役時代に輝かしい成績を残した名選手でも、何回も落選を重ねた末の殿堂入りは珍しくない。とはいえ、2014年度にグレッグ・マダックスは得票率97.2%で初年度から殿堂入りしており、傑出した選手なら可能性はあるのが殿堂入りだ。

◆初年度殿堂入りに注目が集まる…ランディ・ジョンソンとペドロ・マルティネス


ランディ・ジョンソン 2001年11月3日(c)Getty Images

今回新たに資格を得た選手で初年度から殿堂入りが期待されるのは、ダイヤモンドバックスなどで活躍し、303勝を挙げたランディ・ジョンソン、通算3度のサイ・ヤング賞を獲得したペドロ・マルティネスの2人だ。

ジョンソンの殿堂入りは、ほぼ確実と見ていい。得票率だけが問題だ。

注目はペドロ・マルティネス。

マルティネスは通算勝利数だけを問題にするなら、殿堂入りの基準とされる300勝には遠く及ばない、219勝止まり。しかし内容が素晴らしい。2年連続を含む3度のサイ・ヤング賞。防御率1位が5度、最多勝1回、最優秀防御率3回。全盛期の1999年にはサイ・ヤング賞も含め投手4冠を達成している。


ペドロ・マルティネス 2004年10月18日(c)Getty Images


アメリカでは、日本よりも細かい指標で選手の能力を推し量る。以下のサイトが詳細な数字を羅列しているので参考にしてもらいたい。

Pedro Martinez Statistics and History | Baseball-Reference.com

様々な指標が並ぶが、このうちWHIPとは、投手が1イニングに平均何人のランナーを出したか算出した数字だ。先発投手で1なら球界を代表するエースとされる。マルティネスはレッドソックス時代のほとんどで達成している。

2000年の0.737はメジャー史上でも最高の数値だ。

それでも、こうした数字だけ並べるのは、マルティネスの傑出度を半分しか語ったことにならない。

◆最強投手の名声、周囲の薬物に支えられた皮肉な構図

彼を時代の最強投手と評価する声が高いのは、当時メジャーがドーピング全盛であり、強打者の多くが後に薬物使用を問題視されたことによる。

他の競技では70年代から禁止されていたアナボリックステロイド。メジャーリーグが重い腰を上げ本格的に検査するまでにはおよそ30年がかかった。

この間にマーク・マグワイアとサミー・ソーサのホームラン王争いや、バリー・ボンズの通算700号本塁打達成などが起こっている。まれに見るスーパーパワーヒッターが、究極とも言えるレベルでしのぎを削った時代だが、今振り返ればその違和感も感じ得る。


マーク・マグワイヤ 1998年7月11日(c)Getty Images



サミー・ソーサ 1998年8月18日(c)Getty Images

90年代半ばのストライキ騒動でファン離れが進んだメジャーリーグ。危機的状況を救ったのは、98年に起こったマグワイアとソーサのホームラン王争いだった。派手な空中戦見たさに再びファンは球場に詰めかけた。しかし、裏にはステロイドの力があった。

ファンの失望は、同時代に無敵のエースとして活躍したマルティネスの評価を高め、殿堂入りを後押ししている。

◆ステロイダーの殿堂入りは絶望的

マグワイア、ソーサ、ボンズの3名とも実績に反し、殿堂入り投票では得票率が伸び悩む。特にバリー・ボンズは成績だけで見るなら落選する理由がない。彼が無理なら今後ステロイダーの殿堂入りは絶望的だろう。


バリー・ボンズ 2006年5月9日(c)Getty Images

99年のオールスターでマルティネスはソーサ、マグワイアを含む4人の打者を連続三振に仕留めている。ステロイド使用がパワーだけでなく動体視力も向上させることは既に知られている。それでもマルティネスの球は前に飛ばすことすら困難なレベルにあった。

実力があまりにも傑出しているため、マルティネスの薬物使用を疑う声もある。が、現在までに裏付ける証拠や証言はない。

マルティネスのキャリア後半は、度重なる怪我に悩まされ、そのたびにピッチングから輝きは失われていった。2005年を最後に2桁勝利からも遠ざかる。

フィリーズの一員として出場した2009年のワールドシリーズ、松井秀喜に2試合で2本のホームランを打たれたのが、メジャー最後の登板となった。日本人にとっても記憶に残る試合だ。


ペドロ・マルティネス vs 松井秀喜 2009年10月29日(c)Getty Images

現在のマルティネスは、レッドソックスの特別GM補佐として古巣に戻り、チームの強化に尽力している。

◆時代に揉まれた大投手の評価は

2014年オフには、ドミニカのウィンターリーグに参加した中日の又吉克樹投手が、現地でマルティネスに会ったことをTwitter上で報告した。


現役時代は公称180センチだったマルティネスだが、同じく公称180センチの又吉と並ぶと少し小さい。

同時代にナショナル・リーグのエースだったランディ・ジョンソンが、2メートル超えの長身だったこともあり、何かと対比される存在だ。

短期活躍型の選手でも、過去にサンディー・コーファックスなど傑出度で殿堂入りを決めた例はある。また先発投手の登板数やイニング数が減らされる現代では、単純に通算の勝ち数だけを見るのは時代に合わなくなっている。

投手の分業化が一気に進んだ現代野球。この変化の時代に一線で活躍し続けたマルティネス。時代に揉まれた背景をどう評価するのか、という点も殿堂入り投票では注目だ。

投票結果が出るのは年明けの1月6日。果たして1回目の投票で殿堂入りを決めることはできるか。
《北上賢治》

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