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山岳地帯に持ち込んでもその性能はエクセレント!である。魔法のように軽く、モーターが付いているかの如くよく進む。羽のようにしなやかに…というよりは、トラクションがガッツンドッカンとかかる感じだ。シッティングでもよく走るし、ダンシングでもトルクをかけたとたんに車体がスパーンと前に出る。フロントに荷重してもハンドル周りはミシリともいわない。フレームのしなりが好きな人には向いていないが、この圧倒的な推進力、パリパリとした軽快感は最高クラスである。ここまでの剛性を超軽量にパッケージしたスペシャライズドの技術は驚きに値する。
しかし残念なことに、ホビーレースレベルの脚力しか持たないライダーでは、この素晴らしい性能と引き換えに失うものがあるかもしれない。僕がこのSL2でヤビツ峠を登っていたとき、頂上まで残り数キロというところでぱったりと脚が回らなくなってしまった (都内をスタートしてから約70kmの間、平地でガンガンに踏んでいたせいもあるのだろうが)。心肺には余裕があっても、あまりの剛性に耐え切れず筋肉が限界を超えてしまったのだ。ギアはファイナルローから動かせない。ハムストリングは攣る寸前。
さっきのコーナーを回ったとき、悲しいかな、鐘は刻を告げたのだ。魔法は解け、楽しいパーティーはお開き。着飾ったシンデレラよろしく浮かれた気分で走っていた僕は一瞬にしてただのホビーレーサーに逆戻り。面白いように進んでくれるものだから調子に乗って踏んでいると、気付かないうちに筋肉にダメージが残るのである。
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ここまでの高剛性だとさすがに振動が伝わるかと思いきや、意外にもそこそこの振動吸収性を持っている。しかも収束が速く、振動がドタバタと尾を引かない。そういった意味での快適性は高い。
だが、路面からの振動を吸収する 「快適性」 と、長距離ライドで脚に疲れが残りにくいという 「快適性」 では、快適の意味が全く違う。これらはなぜか一緒くたにされて語られることが多いようだが <振動吸収性が良い=長距離でも疲れにくい>というわけではないと僕は思う。いくら振動を吸収してくれても、ハンガー部分の硬さが脚に響いてくるバイクもある。このSL2は、硬い。
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飛行機にしてもクルマにしても、軽量・高剛性で運動性能の高い乗り物は、反すと安定性に欠け、操縦が難しいと言われるが、このSL2も俊敏なハンドリング特性を持っている。ジオメトリが同一なターマックSLではここまでのシャープさを感じなかったので、ヘッド~フォークの剛性が増したことによってハンドリングの初期応答性が上がったのだろう。微細な入力にすぐ反応してしまうのだ。そのピーキーさに輪をかけているのが、このカーボンリムとROVALオリジナルのブレーキシュー (スイスストップ製) との組み合わせ。制動力の立ち上がりが急すぎる。それがこのバイクを上級者向けにしてしまっている。車体とホイールが軽い上にヘッド剛性が凄まじく高く敏感なので、特にダウンヒルではテクニックが必要になるだろう。慣れるまで慎重に下ることをお勧めする。もっとも、ホイールの交換や、リムとシューの相性を考慮することによって解消されるファクターだろう。
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ターマックSLの単なる後継機種だと思っていたが、どちらかといえばしなやかで扱いやすく、万人に乗りやすいSLとは全くの別モノだ。対照的とも言えるカリカリの戦闘機である。スラム・レッド、S-Works FACTカーボンクランク、ROVALカーボンホイールがセットされた完成車の105万円には目が飛び出そうだが、クランクなしのフレームセットは34万8千円。他メーカーではセカンドグレード、サードグレードの価格である。このパフォーマンス・コスト・レシオは抜きん出ているのではないだろうか。
過激な性能を求めるレーサーには間違いなくお勧めできる。ロードバイクを褒め称える慣用句として 「ロングライドだけでなくレースにも使える高性能」 などと言ったりするが、僕はこのSL2に 「レースにこそ使うべき過激派」 という表現を使いたい。間違っても川沿いをのんびりと走らせるためだけに買ってはいけない。日本で行われるような短距離のレースであれば、このSL2の魔法のような高性能であなたは間違いなくシンデレラ・ボーイに変身することができる (ガール達にはルビーSLが用意されている)。パーティー会場は?高層ビルの谷間を縫うストリート、険しい斜度が続く山岳、ハイスピードで闘うサーキット…TARMAC (舗装路) ならどこでも。ライバルをロックオンしたら、機を見計らってスラム・レッドの赤いボタンをカチリ。
そのターゲットを撃墜できるかどうかは、あなたが、魔法が解けてしまわないような強靭な脚力と巧みなテクニックを手に入れられるかにかかっている。
グッドラック!
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