【アーカイブ2009年】リドレー ダモクレス、最先端バイクのスムーズネスはないが…安井行生の徹底インプレ | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【アーカイブ2009年】リドレー ダモクレス、最先端バイクのスムーズネスはないが…安井行生の徹底インプレ

オピニオン インプレ
【アーカイブ2009年】リドレー ダモクレス、最先端バイクのスムーズネスはないが…安井行生の徹底インプレ
  • 【アーカイブ2009年】リドレー ダモクレス、最先端バイクのスムーズネスはないが…安井行生の徹底インプレ
最先端バイクのスムーズネスはないが…







ブレーキングはどうか。デュラエースの高剛性キャリパーで、しかもわざと意地悪なやり方でリムをわしづかみにしてみても、減速中の挙動に破綻はまったくなく、減速しようと思えば意図したものと寸分のズレもないマイナス加速度でズズッと減速するし、止まろうと思えば意図したものと1cmと違わぬ場所にビシャッと止まる。



ではハンドリングは?これもまた素晴らしい。通常の速度域では気持ちオーバー傾向のニュートラルステア。よって、ダモクレスは常にリズミカルなコーナーワークを示し、スパン!スパン!とアスファルトの湾曲をナイフで抉り取るようにクリアしていく。



ここまで動的性能がいいなら快適性に文句をつけるべきではないが、振動吸収性も決して悪くないので文句のつけようがない。振幅を小さくしながらも路面の凹凸を正直にライダーへと伝えるそれは、ロードバイクとして理想的なそれである。



ただ、試乗車にアッセンブルされていたホイール、シマノ・WH-7850-SLの完成度の高さはバイクの評価から差し引く必要があるだろう。このホイールが怪しいと睨み、自分のバイクに付けて走らせてみたが、予想通りそこいらのカーボンホイールよりよく走る性能が出ていて驚いた。一世代前のシマノのスカンジウムモデルは全くどうしようもないダメホイールだったが、このWH-7850-SLは飛び級で進化した感じで完全に別モノ。あとはこの無粋極まりないグラフィックがどうにかなれば、すぐにでも1セット買わせていただこうと思う。







ホイールの完成度を考慮したとしても欠点らしい欠点はないが、褒めてばかりではウソくさくなるので、気になるポイントを (できるだけたくさん) 挙げておこう。



まず、見えない糸で前から引っ張られるような、最先端バイクのスムーズネスはない。その力強い走りは、「前輪と後輪が仲良く手を取り合って走る」 のではなく、「リアセクションがフロント部分の背中をどやしつけながら爆走する」 というイメージを常に伴う。自分が手綱を捌くのだ、というプラスのイメージを持って乗ると楽しい。



また、ダンシングでハンドルを振ると、振り幅の一番大きいところで前輪がふらつきがちになり、真っ直ぐ走らせることを意識する必要がある。矢のような直進安定性も持たない。


高速ダウンヒルでも文句が全くないわけではない。調子に乗って突っ込みすぎると、ハンドリングはそれまでのオーバー気味ニュートラルから弱アンダーへと移行する。が、ニュートラル→弱アンダー移行の速度はゆるやかであり、扱いやすさに繋がっている、ととらえることもできる程度のものだ。



しかしそれでも素晴らしく魅力的なバイクであることにかわりはない。そのガンダムチックなカタチからはかつてのロードバイクが持っていた美しい黄金比的フォルムは微塵も感じられない、ということを欠点リストに加えたとしても。







価格高騰止まぬ現代ロードバイク界の一つの奇跡







さらに言うならば、単なる私見にすぎないが、このバイクから 「未来に拡がる景色に対する憧憬 (大雑把にこう言ってよければ…新しさ?)」 のようなものは感じられない。ロードバイクとはこうあるべし!という、「現在」 になった瞬間に過去に葬り去られてしまうような 「今の価値観」 を全力で肯定しながら、ダモクレスは前向きだ。だからそれは、灰色の街を鮮やかに泳ぎまわり、山を生き生きと、ひたむきに駆けた。



もし僕がダモクレスのキャッチコピーを考えるなら、「カルペ・ディエム (今日一日の花を摘め=いまを生きろ)」 と書きたい。然らば、王座の上に髪の毛一本で吊るされていたという 「ダモクレスの剣」 が意味する、栄華はいつ危険に晒されてもおかしくない、と諭すギリシャ神話の故事も、なにやら意味深に思えてくるではないか。



そんなダモクレスには、神経がフレーム内部に伸びて行くことによる一体感というより、ロードバイクという乗り物とちゃんと向き合っている、ロードバイクで疾走するという純粋な行為に取り組んでいる、という生々しい実感が、嬉しさとして身体へ逆流してくる、という、そういう種の 「らしさ」 がある。そのギリギリまで減量したボディを上手く操るには繊細な作業を要求してきた前回のG4に対し、手なずける必要も気難しい部分もないダモクレスは、ダモクレスならではの無垢 (だがしかし濃厚な) 快感を、乗り手へ向けて素直に差し出すのだ。



最も驚くべきは、極めて現実的な話になるが、その驚異的なパフォーマンス・コスト・レシオである。もしこれが倍の価格でも、僕は大いに褒めるだろう。その性能が25万円で買えるのである。だから今回、僕は称賛の言葉を惜しまなかった。先に欠点も挙げたが、価格を考えれば指摘するのをはばかられたのが正直なところだ。



「(25万円の) ダモクレスに最先端バイクのスムーズネスはない」 って…冷静に考えればあたりまえである。「250万円のスポーツカーは300km/hで楽々と走ることは出来ない」 のがあたりまえであるのと同じように。様々なバイクをとっかえひっかえ試していると、時として 「250万円」 を 「300km/h」 の基準で判断するという過ちを犯しそうになることがあるが、それはたいていそのバイクが 「価格を超えた価値」 を持っているときである。「価格なりの性能しか持たない」 バイクは、ハナからそんな気にはさせてはくれない。常に 「価格」 を意識させるが故に。







リドレー・ダモクレスは、「価格」 を忘れさせ、「300km/h」 の基準で判断させようとした、「価格を超えた価値」 を持つバイクだ。世相に反して価格高騰を続ける今のロードバイク界にあって、これはほとんど奇跡といっていいのではないか、とすら思う。今回は驚きの連続だった。これはベスト・ミドルグレードカーボンフレームの一つであることは間違いない。こういうバイクに出会うと、どうしようもなく嬉しくなってしまう。



真の「コストパフォーマンスに優れたバイク」 とは、ほかならぬ、このダモクレスのようなフレームのことを言うのである。言うべきなのである。それを全力で走らせれば、「クールでオシャレ」 とか 「エッジチュービングなんて見た目だけ」 なんて口が裂けても言えなくなる。



20万円でおつりがくるフルカーボンバイクやリアディレイラーにデュラエースをポン付けした30万円の完成車や150万円の超高級車、それらを取っ捕まえてその真価を見ないままカッコイイだの安いだのステキだのと褒め称えるなんて誰にだってできるが、ダモクレスに乗ってみればそんなものは結局のところ根も葉もないデタラメ、無責任な野次馬的発言、所詮ただの他人事、単なるバカの一つ覚え以外の何物でもないことが分かる。



そんなお粗末な話をする前に、ダモクレスで走れ。



《》

編集部おすすめの記事

page top