ピナレロの頂点モデル vol.1 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

ピナレロの頂点モデル vol.1

オピニオン インプレ
安井行生のロードバイク徹底インプレッション
安井行生プロフィール

3度目の進化を遂げた唯一無二のマグネシウムフレーム ピナレロの頂点に立つ真のフラッグシップモデル
デビューから6年が経ち、トリプルバテッドのFPXへと進化した孤高のメタルフレーム、ピナレロ・ドグマ。「個人的に最も乗ってみたかった一台」 だという安井が、マグネシウムというマテリアルを総走行距離500kmで味わい尽くす。そしてプリンスカーボンを仮想敵とすることで、改めて金属フレームの 「今の意味」 を検証する第25回。
(text:安井行生 photo:我妻英次郎/安井行生)
2002年、ONDAフォークと共に衝撃のデビューを飾ったピナレロ・ドグマ。デダチャイと共同開発したマグネシウム合金をメインフレーム素材とし、前後にONDAフォークを装備したその姿はロード界に物議を醸し、マグネシウムという聞き慣れない素材と湾曲したフォークでロードバイクファンの関心を独占した。
マグネシウムは軽量かつ振動減衰性に優れた金属であり、自転車のフレーム素材として理想的な特性を持っている。しかし腐食しやすく、溶接が難しいなどの難点もある。純粋なマグネシウムは非常に酸化しやすい物質だが、ドグマに使われているのはアルミニウムを5.8-7.2%、マンガンを0.15-0.5%、亜鉛を0.04-1.5%添加したAK61というマグネシウム合金である。
デビューからすでに6年と息の長いモデルだが、その間にドグマは様々な改良を受けてきた。2004年モデルではチューブがダブルバテッドになり、独自規格のオーバーサイズBBを採用したドグマFPへと進化。さらに2007年にはトリプルバテッドチューブとなり、パイプサイズも変更され、150gの軽量化に成功したドグマFPXがデビュー。ヘッドチューブには上下異径ベアリングを採用し (アッパー:1-1/8インチ、ロア:1-1/4インチ)、ヘッド周辺の剛性アップを実現、より安定したハンドリング性能を獲得している。BB軸一体型クランクシステムが登場した事によりフレームとの剛性バランスが確保され、BBサイズはノーマルに戻った。フォークも側面にリブによる補強が入り、振動吸収性が向上しているというONDA FPXへと進化。ピナレロは、「ドグマFPXはドグマのマイナーチェンジ版ではなく、まったくのニューモデルだ」 と話している。
そんな孤高のメタルフレーム、ドグマFPX。関東近郊の様々な峠を使い、500km以上を走って徹底的にテストした。
※マグネシウム合金の腐食については、市販開始から5年が経過した今でも特に問題にはなっていないとのこと。ケーブルガイドやリベット接合部での電蝕も報告されていない。破損したドグマをカットしてみたところ、チューブ内面には黒い防錆コーティングが施されていたという (ピナレロ・ジャパンによる情報)。しかしシートチューブ内部はリーマーで加工してあるのでコーティングがない。雨天走行後にはメンテナンスが必要となってくる部分だろう。

スペック

異質で絶対的、物腰やわらかだが刺激的 ピナレロはドグマで金属フレームの極致を目指す

Mgという素材、アグレッシブなフォルム、不気味さを増したフォーク、アーティスティックなカラーリング、そして異彩を放つその名前。それら全てが混ざり合って強烈な個性を放ちながら君臨するのがピナレロのフラッグシップモデル、ドグマだ。悪くて強くて妖しくてクール。とりあえずコレを買っておけば間違いないという優等生でも、無味無臭なサイボーグでも、カーボンファイバーの輝きでユーザーに媚びを売る八方美人でもない。時流に乗ることなく、どこか斜に構えたような、ロックな存在。
そんな “立ち姿” は非常にクールなドグマだか、冷静に考えれば、その “立ち位置” は微妙である。2008年のドグマを語るうえで欠かせないのが、プリンスカーボンとの比較だ。なにせ、発売されて間もなく、非常に高性能で、今年のツールでも大活躍している、しかもとびっきりセクシーな、あのプリンスカーボンの方が安いのだ。さらにドグマは年々改良されているとはいえ、もう6年選手である。ハイエンドモデルに非カーボンマシンを据えているビッグブランドは、今や皆無に等しい。今さら70万円を支払って金属カーボンバックフレームを選ぼうという人はいるのか。どちらも買えるスーパーリッチはおいといて、若干リッチなピナレロファンは、プリンスカーボンとドグマ、どちらを選ぶべきなのか。
その対比がないことには、08ドグマ評論としての意味は半減する、と僕は考える。

では実際に走り出そう。まず感じられるのは、走る道路全てに薄い膜を敷いてまわっているような快適性だ。微振動を全てカットしているような、とても金属とは思えない乗り心地である。路面スレスレを滑空する飛翔感を伴ってドグマは進む。まるで磁力で浮上しながら進むリニアモーターカーの浮遊感。かのペタッキは、「これに乗ると200kmのステージでも腰が痛くならず、最後のスプリントまで力が温存できる」 と言っていたそうだが、それはサプライヤーへのリップサービスではなかったようだ。この薄い膜の感覚は、ドグマの走行感を最後まで支配するものであった。
カーボンらしく衝撃の減衰には非常に優れるプリンスカーボンだが、この夢のような乗り心地はない。
プリンスカーボンvsドグマ、快適性はドグマに一票。
もし、初期加速や登坂にて、ドグマの反応にパンチの欠けが感じられたとすれば、その薄膜を原因とした錯覚であろう。実は脚力を一滴たりとも無駄にはしないトラクションがかかっているのだ。例えばドグマでヒルクライムを楽しんでいるとき、薄膜の感覚の下には、ホイールと路面が頑丈な歯車でガッチリと噛み合っているような、強大で豊かなパワーが湧き上がっている。アルプスの急斜面を登るアプト式列車のような力強さがそこにはある。軽いギアで回しても重いギアを踏み倒しても、どんな乗り方をしたとしても、ドグマのヒルクライム性能は揺るぎ無く素晴らしい。
ヒルクライム勝負、瞬間の鋭さではプリンス。総合性能ならドグマ。
《編集部》
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