ゴールデンウィークには積極的に県外まで遠征を組んでチーム強化をしていくところも少なくない。愛知県の成章も、毎年この時期には関東遠征を行っている。その背景には、ただ単にチーム強化と言うだけではない深い縁もある。
■恒例となった5月の遠征
愛知県の公立高校の雄として、センバツの甲子園出場も2度経験している成章。2009年には、現在はヤクルトスワローズのエース的存在となっている小川泰弘を擁して、愛知県勢では初めて21世紀枠代表として甲子園出場を果たした。しかも、開幕試合で駒大岩見沢を下して甲子園初勝利も飾った実績がある。

慶應義塾と成章
実は、この遠征のいきさつは奥が深い。かつて東京都立の強豪としてメディアでも注目を浴び、高校野球指導者のバイブルとまで言われた『甲子園の心を求めて』を著した佐藤道輔・東大和監督が呼びかけたのがきっかけだ。
高校野球をやっていることで、さまざまな経験をしていこうという意図もあって、佐藤前監督はホームステイをしながら遠征試合をしていったことがあった。そんな折に、愛知県の成章と交流を持つことになった。
その時の成章の糟谷寛文監督が、佐藤前監督の指導方針に感銘。以降、交流を持つようになったのだが、いつしか遠征試合も途切れてしまっていた時代もあった。しかし、成章が21世紀枠代表で甲子園に出場を果たしたことが次のきっかけとなった。
■人の縁が遠征をつなげる
甲子園では関西在住の櫃行政たちからなる関西成章会の尽力があったという感謝を糟谷監督が述べたところ、「関東でも成章の野球部を応援したいと思っている人たちが多くいる」と関東の成章出身者から伝えられた。
そんな意見もあり、糟谷監督が今度は関東の成章OBなどにも成章の今を伝えようという意識も含めて、交流が再開。糟谷監督も交流のあった東京都の高校野球研究会を通じて改めて遠征先を求めていた。すると東京では府中工、翌日には慶應義塾、さらに日程の都合がつけばもう1泊して、帰りながら静岡県勢と試合をしていくというスケジュールが組まれるようになっていった。

ノックする成章・河合監督
糟谷監督が定年退職となって母校でもあった成章の監督を勇退(顧問としては在籍)した後は、教え子の河合邦宗監督が引き継ぐことになったが、この遠征は継承されている。この春からは蒲郡で現ソフトバンクの千賀滉大を育てた実績もある伊藤暢康部長が異動してきた。伊藤部長もまた、成章の出身で糟谷前監督の教え子という縁もある。
「今年のチームは、ここ何年かの中でも力は劣っているかもしれません。それでも、こうした遠征の中から何かをつかんでもらえれば、という思いもあります。それに、この遠征も恒例行事になっていますから、ひとつの節目になります。これで(田原市の学校に)戻ってからは、また新たに今度は1年生も交えた中で、もう一度チームを作り直していくことにもなります」
河合監督はこの遠征自体には、ひとつのけじめという意味合いも持たせている。
高校野球のほとんどのチームは、これから夏へ向けてチームをもう一度作っていく時期に入っていく。それだけに各校は時間の許す限り、連休からはじまる5月の土日などは、多くの相手と試合を組んでいきながら、さまざまなことを試していこうというテーマを持っている。
そして、その中で見えてきた課題をクリアしながら6月を過ごし、7月の夏本番へ向かっていくのである。