世界の強豪が続々とオーストラリア入りしている。その中には大会4度の優勝を誇るロジャー・フェデラーの姿もあった。33歳の元王者は昨年、ウィンブルドンでノバク・ジョコビッチとフルセットの激闘を演じ、敗れはしたものの世界中のテニスファンを熱狂させた。
2013年には世界ランクを7位まで落とし、限界説や引退説がささやかれていたフェデラー。2014年に復活を遂げた彼は何が変わったのだろうか。
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■テクノロジーの発達とテニスの変化
フェデラーに起こった最大の変化と言えば、コーチにステファン・エドベリを迎え入れたことだ。現役時代はサーブ&ボレーの名手と知られ、世界ランキング1位も経験したエドベリのテニスは、フェデラーのスタイルに大きな変化をもたらした。
テニスは時代によって戦術やプレースタイルが様変わりする。選手自身の変化や、コートやラケットといった道具の進化による。テニス界で一時代を築いたサーブ&ボレーも、近年は減少し絶滅が危惧されていた。2012年にサーブ&ボレーは失われるのかと題し、アメリカのCNNがサンプラスら元世界王者へインタビューしている。
サンプラスは「テクノロージーの発達がテニスを変えた」と言う。かつて強力なサービスに対し、スピンを掛けながら強く打ち返すのは至難の業だった。だからこそネットに詰めてボレーすることが出来た。しかし現代ではラケットがより良いものになり、当時では考えられないようなフルスイング、力任せなスイングをしてもしっかりボールにスピンが掛かると指摘した。
また近年は打ち合いを増やすため、球足の遅いコートが増えているのも影響している。
こうした時代背景から、デビュー当時はサーブ&ボレーを多用していたフェデラーも、徐々に前へ詰めることはしなくなっていった。王者の選択が時代の終焉をより強く人々に意識させた。
しかしフェデラーは「2001年ころの私はサーブ&ボレーを多用していたが、最近はまったくやらなくなっていた。ステファンが今でも当時のプレーが出来ると気づかせてくれたんだ。新しいラケットも理由のひとつだ。より強いサーブが打てるようになった」と、2014年シーズン再び積極的に前へ出るテニスを始めた。
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■攻めの姿勢で弱点をカバーする
世界の潮流がストローク主体のテニスであることは疑いようがない。フェデラー自身も世界最高峰のストローク技術を持っている。彼の場合そこにサーブ&ボレーが加わったことで戦略に幅が生まれ、意識の上でも変化があった。
現在は男子でもバックハンドストロークを両手で打つ選手が増えている。サーブ&ボレーが減少し、ベースラインからの強打で攻めるテニスが主流になったことで、より強いボールを打てる両手打ちが時代にマッチしているとされたためだ。
その中で片手打ちのフェデラーは、バックを狙われることが多くなった。テニス史上の最高傑作とも評されるフェデラーだが、バックに唯一の穴があると多くの選手は見ていた。その穴を埋めるうえでも前へ出るテニスは効果を発揮する。
最近のフェデラーは相手が自分のバックサイドを狙ってくるのが分かっているから、バックハンドでのストローク戦は早々に切り上げる。ダウンザラインで相手を崩し前へ出ることで、自コートのバック側を絞り返球をフォアで打ち返すようになった。
退いて守るのではなく、前へ出て攻めることにより、弱点をカバーする。30を過ぎて尚、王者は攻撃的に進化した。
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■変わらないものが、大きな変化を支える
2014年に復活を遂げたフェデラー。新ラケットを試し、試行錯誤していた2013年後半から、既に逆襲は始まっていたのかもしれない。気になるのは、なぜフェデラーは33歳になった今も、変化や変革を恐れず新しい世界へ飛び込んでいけるかだ。
およそテニス選手として得られる称号、タイトルはすべて獲得したと言っていい。だが未だ高いモチベーションを保ち続けている。
プロテニス選手の生活は過酷だ。旅から旅で1年の大半を過ごす。マイケル・チャンは錦織圭のコーチ就任を打診された際、最大の懸念事項はツアー生活で家族に会えなくなることだったと告白している。
時代が自分を置き去りにしようとする中で、コートを離れる選択肢もあったはずだ。だがフェデラーは現役を続ける自分について、不思議なことでも何でもないと語る。
「プロ選手として戦い続けるために必要なのは、競技への愛だ。それがなければツアー生活は耐えがたいものになる。だから私にとって現役を続けるのは、苦ではない。私は何故、自分がテニスをするか分かっているからね」
テニスに対する熱い想い、子供のころから変わらない競技への愛が王者の変化を支えている。