【THE ATHLETE】ゴロフキンの絶対感が薄れたミドル級、村田諒太は覇権を握れるか | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【THE ATHLETE】ゴロフキンの絶対感が薄れたミドル級、村田諒太は覇権を握れるか

オピニオン コラム
村田諒太がWBA世界ミドル級新チャンピオンに(2017年10月22日)
  • 村田諒太がWBA世界ミドル級新チャンピオンに(2017年10月22日)
  • 村田諒太がアッサン・エンダムにTKO勝利(2017年10月22日)
  • ゲンナジー・ゴロフキン対サウル・カネロ・アルバレス
  • ゲンナジー・ゴロフキン 参考画像(2016年9月10日)
  • サウル・カネロ・アルバレス 参考画像(2015年11月21日)
(c)Getty Images

近代ボクシングが誕生したとき、そこに階級制の概念は存在しなかった。グローブの着用を義務づけるクインズベリー・ルールさえも策定されておらず、ボクシングとは体重無差別の何でもありで男たちが殴り合うものだった。

ボクシングが階級制を採るようになったのは19世紀の終わり。まず最重量級のヘビー級があり、軽量のライト級、その間を埋めるミドル級が作られた。100年以上経った現在、ボクシングは17階級に分けられ厳密なウェイト制が敷かれている。中間に位置するのはライト級。ミドル級は上から5番目に重い階級だ。

ミドル級は身長180センチ前後の選手が多い。このサイズになると欧米人との体格差が如実に表れてくるため、かつて「日本人には不可能な階級」と言われた。それでも1995年に竹原慎二がWBA世界ミドル級王座を奪取して重い扉をこじ開けた。だが、その後は長く竹原に続く選手が現れず、中量級全体で見ても日本人の苦戦が続いた。

しかし2017年10月22日、村田諒太がアッサン・エンダムにTKOで勝利。日本人ふたり目の世界ミドル級王者が誕生した。

再戦を勝利で飾った村田諒太
(c) Getty Images


155日目の完全決着


試合は序盤から村田のペースだった。エンダムが接近戦を挑んでくる思わぬ展開もあったが、村田はプレッシャーをかけて相手を下がらせる。ジリジリと追い詰める村田に対しエンダムは両腕を回して組みつく。レフェリーのケニー・ベイルズがホールディングの注意を与える場面もあった。

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前回の対戦でダウンを奪われた村田の右がイメージとして焼き付いていた。前の一戦が村田に自信を与えたのとは対照的に、エンダムは精神的な痛手を引きずったままリングに上がっていた。

顔面への右を警戒するエンダムに対し、村田はボディへも強烈なパンチを打ち分ける。肝臓を狙った左ボディ、腹を狙った右ボディが深々と突き刺さる。ダメージが蓄積したエンダムは7回終了時点でギブアップした。

再戦を勝利で飾った村田。日本ボクシング界にとっても大きな世界タイトル奪取だが、試合後のインタビューでは冷静に海の向こうで待つ強敵たちとの戦いを見据えた。

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「(ロンドン五輪の)金メダル獲ったときに思ったことは、過ぎてしまったら大したことじゃない、そのあとが大変ということ。このベルトも獲ってしまってからが大変だと思ってます。いまは4団体ありますし、いろんなチャンピオンがいます。ボクシングを大好きな人は僕より強いミドル級のチャンピオンがいることも知っています」

客席から「ゴロフキンだ!」と声があがると、そちらを振り返り村田は頷いて「そう。そこ目指して頑張ります」と応えた。

村田が目標として掲げたゴロフキン
(c) Getty Images


ミドル級に長期政権を築いた絶対王者


WBAスーパー、WBC、IBF世界ミドル級王者ゲンナジー・ゴロフキン。2010年8月に世界タイトルを奪取してから7年間連勝を続け、世界タイトル17連続KO防衛の最多タイ記録に並んだミドル級最強の王者だ。

2017年9月には対戦が熱望されていたサウル・“カネロ”・アルバレスとついに激突。フロイド・メイウェザー対コナー・マクレガー戦が、『ニューヨーク・タイムズ』に「一流の役者によるサーカス(真のリアルファイトではない)」とこき下ろされてから3週間後に、同じラスベガスのT-モバイル・アリーナでゴロフキン対アルバレス戦は行われた。

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『ミドル級最強決定戦』と銘打たれた試合は、序盤からゴロフキンがプレッシャーをかけ、終始リングの中央側に陣取りながらアルバレスをロープに詰め続けた。アルバレスも卓越したスピードとテクニックでしのぎきり、KOこそ許さなかったが傍目には“ややゴロフキン優勢”に映った。

判定を待つ両者の表情を見ても、やりきった感じで晴れ晴れとしたゴロフキンに対し、アルバレスは浮かない顔と映った。しかし、発表された判定は110-118、115-113、114-114の引き分け。最初の110-118が読み上げられた瞬間、勝ち名乗りを受けるつもりで待っていたゴロフキン陣営に困惑が広がった。

この判定に対してはカザフスタン出身のゴロフキンに対して、メキシコ出身で北中米に絶大な支持基盤を持つアルバレスの人気が影響したとの声が多い。アルバレスに118-110をつけた女性ジャッジには、「あり得ない」「資格停止ものだ」など大きな批判が浴びせられた。

ゴロフキン対アルバレス戦
(c) Getty Images


かつてほど絶対的ではないゴロフキンの支配力


釈然としない『疑惑の判定』に終わったゴロフキン対アルバレス戦。2018年5月のリマッチも予想されているが、それより気になるのはこの試合で両者の限界が見えてなかったかだ。

ゴロフキンは2戦続けてKO勝利を逃した。本当によかったときほどの決定力が見られない。ただ、これは相手との兼ね合いもあるため何とも言いづらい。むしろ以前よりパンチをもらうようになったディフェンス面で不安がある。アルバレス戦以前からここ何試合か、昔よりもヒヤッとする場面が多くなった。1発当たれば何でも起こるミドル級で勝ち続けるには、倒す力もさることながら守る力の衰えは怖い。

35歳になったゴロフキンが来年、再来年も絶対的な存在でいられるかは怪しくなってきた。

対するアルバレスはキャッチウェイトなしで戦ったことにより、やはりミドル級では力強さに欠ける印象が残ってしまった。一階級下のスーパー・ウェルターが適正体重だろう。

依然としてゴロフキンとアルバレスがミドル級では世界の2トップと目されることに変わりはない。だが、その下には判定で敗れたがゴロフキンの連続KO防衛を止め、接戦に持ち込んだダニエル・ジェイコブズがいる。無敗でIBF世界スーパー・ウェルター級を制したジャーモール・チャーロも階級を上げ、WBC世界ミドル級1位としてゴロフキンのベルトを狙う。そのほかにはIBFの次期挑戦者決定戦に勝利したセルゲイ・デレビャンチェンコ、WBO世界ミドル級王者のビリー・ジョー・ソーンダースもミドル級の覇権を目指している。

ゴロフキンの絶対王者としての存在感が薄れるのに合わせて、ミドル級には次々に強者が現れてきた。ひとつの時代が終わり、新たな時代が始まろうとしている。群雄割拠のミドル級新時代。果たして村田は主役に躍り出ることができるか。
《岩藤健》

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