両手をだらりと下げた独特のフォームから、ボールホルダーとの間合いを一気に詰めては仕留める。獰猛な肉食獣と化した90分間。泥で汚れたユニフォームは、ボランチ山口蛍(セレッソ大阪)の勲章だった。
■自分の特徴を生かすために日本代表に呼ばれた
3月のアジア2次予選以来のハリルジャパン招集となった今回。ワールドカップ・ロシア大会出場がかかったアジア最終予選へ。山口は闘志を胸中に秘めながら、淡々とした口調で出陣を待っていた。
「アジア最終予選を経験したことがないから、どのようなこと(を頭に浮かべて)と言われてもあまりわからないんですけど。でも、自分の特徴を生かすために呼ばれたと思うので、まずはそこをどんどん見せていけたらいいかなと思っています」
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タイ代表戦に出場した山口蛍 (c) Getty Images
まさかの苦杯をなめた、UAE(アラブ首長国連邦)代表との初戦をベンチで目の当たりしてから5日。舞台を敵地バンコクに移したタイ代表戦の後半9分に、山口をして「特徴」と言わしめるプレーが飛び出した。
右コーナーキックから得たチャンス。ゴール前の大混戦から、最後はFW浅野拓磨(シュツットガルト)が放ったシュートがMFナルバディンに当たり、GKカウィンにキャッチされた。
このとき、シュートがナルバディンの左手に当たってはね返ったようにも見えた。浅野をはじめ、ハンドによるPKをアピールした日本選手は実に6人。しかし、主審のトルキ氏(イラン)は笛を吹かない。
プレーはそのまま続行され、カウィンは“タイのメッシ”と呼ばれる司令塔、チャナチップへボールを投げる。そして、アピールで足を止めていた分だけ、日本の切り替えが微妙に遅れる。
ただひとり、山口だけがチャナチップをケアしていた。背中を向けてスローインをトラップしようとしているチャナチップの左側から、死角を突くようにボールを奪おうと前方へと回り込む。
このとき、チャナチップも山口の気配を察し、体を時計回りに回転させて抜け出そうとする。そして、チャナチップを信じてFWティーラシン、MFシャリルが前線へと走り出している。
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山口蛍 (c) Getty Images
コーナーキックで攻め上がっていた吉田麻也(サウサンプトン)、森重真人(FC東京)の両センターバックの帰陣も遅れている。チャナチップに前を向かせて、パスを出されたら絶体絶命のピンチを招いてしまう。
カウンターだけは発動させてなるものか――。トラップしようとチャナチップが伸ばした左足に、山口が体を当てる。転倒させた直後にファウルこそ取られたものの、イエローカードは提示されない。
この時点でスコアは1‐0。タイが乾坤一擲のカウンターを成功させれば、勝敗の行方はわからなくなっていた。チームを救う価値あるファウル。表情ひとつ変えずに、山口は所定のポジションへと戻っていった。
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