
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ハンドリングは素直で良好。直進安定性が高く、かつコーナリングはニュートラル。がっしりとしたフォーク・シートステーによってブレーキは前後ともよく効く。快適性については思いのほか振動が伝わってくる印象を受けたが、表面はソフトなのでガツガツとした衝撃は緩和される。
スパッとした鋭い切れ味はないが、「走る・曲がる・止まる」という重要な走行性能において破綻がない。軽快感は一般的だが、パワーをしっかりと受け止めてくれるまとまりのよいバイクである。
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だがどうもこのバイクがぴったりとはまるシーンが見えてこない。自分ならこのバイクで何をするか、どこを走るか。ホイールを変えて色々と試してみる中で、ツボにはまったのはカーボンディープリムのホイールである。ボントレガーのレースXライトエアロカーボンで走ると印象はガラリと変わり、驚くほど良くなった。加速は軽くしなやかに、ヒルクライムにも軽快感が加わり、シッティングでもダンシングでもスイスイと進むようになる。高速の巡航性も素晴らしく向上した。全てのフィーリングが洗練されてしなやかになり、一つ上の価格帯のバイクのような上質で澄み切った乗車感があった。
いいホイールにすればバイクの性能が上がるのは当たり前なのだが、この組み合わせにはホイール単体の性能差以上の違いがある。フレームの持つ安定感・重厚感が、しなやかなカーボンディープホイールと完璧にマッチしたのだろう。
しかしカーボンリムは制動力が急に立ち上がることがあるので、フォークの弱さを感じる場面があった。アルミリムでは全く問題なかったので、シューの選定や角度調整で解決できると思われる。
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
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このゼニス・レースに対する個人的な意見だが、リアディレイラーだけをデュラエースにしたり高価なカーボンクランクをセットするくらいなら、もっとホイールにコストをさいてほしかった。そのほうがバイク全体としての完成度は上がるだろう。ディレイラーやクランクなんてシマノのミドルグレードで十分な性能が得られる。重量だってそんなに変わらないし、そもそも躍起になって軽量性を追い求めるバイクでもないはずだ。ゼニス・レースのスペックを見ると、クランクがFSA・SL-Kライトカーボンで約9万円 (!)、ホイールがシマノ・WH-RS10で約2万4千円。思わず 「コスト配分逆だろ!」 とツッコミを入れたくなるパーツアッセンブルである。しかしRS10を通勤用や練習用にして、決戦用ホイールを買い足す人にとっては魅力的なスペックとなるだろう。
(ジェイミス・ジャパンに問い合わせたところ、練習用や普段使いとして割り切ったホイールを意図的にアッセンブルしているとのこと。好きなホイールを自由に選べるように低価格ホイールを付けるというのは、なるほど一つの手ではある)
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平坦路と緩やかなアップダウンが適度にミックスされた道をイーブンペースでどこまでも走っていきたい。カラーリングが持つ雰囲気を含め、そんなことを思わせるバイクである。
緑豊かな丘陵地帯に舗装された綺麗なアスファルト。朝もやに霞む森のなかの一本道。
そんな大自然の濃いグリーンに、鮮やかなレッドとホワイトのフレームが映えるだろう。
「卒業」 のスパイダー、「バニシング・ポイント」 のチャレンジャー。もしくはローマを舞台にした甘く切ない恋愛映画におけるヴェスパのように、このゼニス・レースにしか似合わないであろうシーンが、世界のどこかにはあるような気がする。
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