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キャノンデール初となるフルカーボンレーシングロードバイク、スーパーシックス。極太ヘッドチューブ、扁平されたアワーグラスシートステー、オーバーサイズBBなど個性溢れるディティールを持つモデルである。発表されるやいなやレース界で大活躍している注目の一台を徹底試乗!
(text:安井行生 photo:我妻英次郎/安井行生)
ロードバイクではフルアルミにこだわってきたキャノンデールが、初めてカーボンとアルミとを融合させた画期的なバイク 「シックス・サーティーン」 を発表したのは2004年。フロントトライアングルを全てカーボンとし、リアのアルミセクションと組み合わせた後継モデル 「システムシックス」 でジロ・デ・イタリア総合優勝などの栄光を手にした後、満を持して発表されたのがキャノンデールのレーシングロードバイクでは初となるフルカーボン製の 「スーパーシックス」 である。
アメリカのペンシルバニア州、ベッドフォードにあるキャノンデール工場にて1本1本生産されるスーパーシックスの素材はハイモジュールユニディレクショナルカーボン。ダウンチューブは断面二次モーメントを増大させて高剛性を得るというキャノンデールお得意の手法で極太だ。目を引くのは樽のように太いヘッドチューブ。クラウン部分には1.5インチの大口径ベアリングを採用し、高い精度と正確なハンドリングを誇る。特徴的なオーバーサイズBBシェル 「BB30」 は、左右非対称のチェーンステーと一体成型され、圧倒的な軽量性を持ちながら高いパワー伝達性を実現しているという。キャノンデール独自のアワーグラスシートステーは健在だが、カーボンの設計自由度を活かして横方向に扁平されており、横剛性を確保しながら縦方向のしなやかさを追求している。
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精悍な一台である。フレームを被う漆のような黒を鋭いシルバーがキリリと引き締め、一分の隙もなく組み上げられた精密な戦闘マシンという感じがする。
しかし残念ながら市販されている全てのロードバイクとは、程度の差こそあれ、結局のところは最適化の結果・妥協の産物なのだ。 各メーカーは、性能、強度、軽量性、耐久性、素材、生産性、商品性、デザイン性の全てに妥協しながら相反する要素をどうにかこうにかバランスさせ、コスト内で目標ポイントに着地させようと試みる。究極を目指した乗り物といえど工業製品なのである。
また、100年という年月をかけて進化し尽くしたロードバイクのフレームはどれも似たようなものになっている。三角形で構成されたトラス構造という基本のカタチはどれも一緒。やむを得ない。UCI規定の縛りもあるが、他の一般商品と違い、「カタチ=機能」 だからである。クルマのようなボディスタイリングもないし、家電製品の内部機構に被せられるオシャレなケースカバーもない。機能がそのままカタチとなっているのがロードバイクなのだ。今のカーボン全盛時代にはブランドロゴのステッカーを剥がしてしまえば見分けがつかないくらい似ているフレームも多い。ひょっとすると工場だって一緒だ。
だが実際に乗ってみるとここまで個性に溢れているのはなぜか。素材の差、パイプ形状のわずかな差、パイプ角コンマ数度の差、パイプ肉厚の差、ハンガー下がり・フォークオフセット数ミリの差、金属フレームなら溶接ビードを削る削らないの差、カーボンなら炭素繊維の編み方や配置する方向や積層する数のほんのわずかな差が積み重なり、走行感や性能の歴然とした違いとして伝わってくる。
その構造上の違い以前に、メーカーが目標とする (エンジニアが考える) 着地点が異なるのもまた事実だろう。目的は同じレースフレームでも、それを貫く根本の概念からして差がある。
反応性を上げようとすれば振動吸収性が下がる。快適性を求めれば動的性能が低くなる傾向にある。剛性感としなやかさをそれぞれどこでバランスさせるか。バネ感を犠牲にしてレスポンスを重視しスプリントにかけるのか、しなやかさを活かして進む味付けにするのか。それとも乗り手の疲労の軽減にプライオリティを置くか。低速域重視?高速?ハンドリングはどうする。直安性か、機敏さか…
相反する各条件を出来る限り両立させようと数々の制約の中での限界のバランスで成り立たせており、その均衡点はピンポイントである。そのポイントの位置はメーカーの思想や技術力によって変わってくる。それがバイクの特色となり、個性となって表れているのだ。
ロードバイク選びというのは、自分の脚の好みにどれだけ近いポイントを持つバイクを見つけられるか、に尽きる。当然そこには予算やルックスや嗜好や思い込みや評判やスペックや所有欲の充足という目的やブランド性や広告イメージ等が絡んでくるので話は複雑になるのだ。
正直に言うと、今回のキャノンデール・スーパーシックスというバイクは、僕の乗り方や脚の好みとは少しのズレがあった。こういうときのインプレッションは難しい。好みとは主観だからである。今回はそれを前提に読んでいただきたい。
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