【アーカイブ】コルナゴ、レースへの情熱とアートの融合 安井行生の徹底インプレ 2008年モデル | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【アーカイブ】コルナゴ、レースへの情熱とアートの融合 安井行生の徹底インプレ 2008年モデル

オピニオン インプレ
コルナゴ Extreme-Power
  • コルナゴ Extreme-Power
稀代のスプリンター、アレッサンドロ・ペタッキのために開発され、勝利を量産したExtreme-Power




世界初のカーボンリブ内蔵パイプを採用し、高剛性化を実現したコルナゴの新たなフラッグシップモデルだ



ビッグレースの平坦ゴールシーンを鮮やかに彩るこのピュアレーシングマシンに徹底試乗!



(text:安井行生 photo:我妻英次郎/安井行生)



「レースで勝てるバイクを作ること」 をバイタリティーの源とするレーシングブランド、コルナゴ。そのコルナゴがトップスプリンター達の要望に応え、彼らを勝利へと導く為に開発したバイクが 「Extreme-Power」 だ。



トップスプリンター、アレッサンドロ・ペタッキの強大なパワーを受け止めるため、C50をベースとして各パイプを大口径化し、それにあわせてすべてのカーボンラグを新設計。さらに前三角パイプの内部には幅10mm、高さ0.8mmの強化リブが設けられており、C50比で30%の剛性アップを果たしている。 フロントフォークは名品と謳われた 「Star Carbon」 から 「Carbon 75」 にモデルチェンジ。クラウン部分のボリュームが増しているが、先端部分では前モデルより細くなり、剛性はそのままに40gの軽量化と快適性の向上を実現させているという。



細身のシルエット、パイプ内蔵リブ、インテグラルヘッドの拒絶… 他の近代バイクとは明らかに一線を画しながらもトップスプリンター達へ数々の勝利をもたらすこのバイクを、ヒルクライマータイプのライター・安井が徹底テスト!







この時代にしてはおとなしいボリュームでノーマルな形状の外ラグ式カーボンフレームだが、それが逆に凄みを感じさせるのはマッスルなフレームが世に溢れかえっているからだろうか。最近の高剛性カーボンフレームにはこれでもかというほどにモリモリと変形加工がされているものが多く、暑苦しい筋肉を誇示されているようで 「あーはいはい」 と言いたくなったりもするが、このエクストリームパワーの各ラグは潔い直線で結ばれ、シンプルでロードバイクらしい美しさを持つ。



トップ、シート、ダウンチューブは全て真円のノーマルな形状で、シートステーはコルナゴお得意のB-Stay。新設計となった 「Carbon 75」 フォークとチェーンステーには控えめにリブが入るが、ヘッドはインテグラルタイプではなく、ダウンチューブが直径44mmへと大口径化されたとはいえ全体的にスマートですっきりとした印象だ。



これぞコルナゴ!といった風情のカラーリングが鮮やか



試乗車のカラーリングは純白から濃く深みのあるブルーへのグラデーション。さらに斜体となった 「COLNAGO」 ロゴがフレーム地とは逆のグラデーションでペイントされており、フレーム上で濃淡が華麗に混ざり合う様は息を飲むほど美しい。陽光の下で見るとさらに輝きを増すこのペイントは、自転車に対して特別な感情を持たない人々の視線をも街角で集めるほど煌びやかだ。トップチューブに描かれる戦闘機のイラストは好みの分かれるところだろうが…



「確かに硬いし加速もいいが、巷で言われているほどではない」 と感じたのはどうやら試乗車に柔らかめのホイールがアッセンブルされていたからで、僕が普段使っているホイールで踏んでみたところ、硬質な踏み味と密度の高い加速感に驚かされた。



中~高速域の爆発的な加速力から比べればゼロスタートはおとなしく感じられるかもしれないが、それでも他のレーシングバイクと比較してもかなりのハイレベルにある。しかし体調や脚質、組み合わせるホイールによっては、静止状態からの漕ぎ出しでズシリとした感覚になるだろう。



高速域ではさすがの爆発力。レールの上に乗った大パワーディーゼル機関車のように重厚で激しい加速。下ハンを握ってバイク上で暴れても、真直ぐに突き進んでくれる安定感のある力強い加速。バイクそのものがエネルギーを後方へ向けて発散しているような、なんとも形容しがたい濃密な加速感。



脚力に自信のあるライダーならこの過激な性能を楽しめる



しなやかなフレームとの心地よい対話もなく、頬に爽やかな風を感じるサイクリングでもない。どこまでも走って行けそうな長距離への憧憬も浮かんでこない。エクストリームパワーとのライディングは、ある種の格闘のようだ。歯を食いしばり腕でハンドルをねじ伏せ、ペダルからの反力を押さえ込むように必死で踏みつける。強固なフレームはミシリとも言わず脚力を太いトルクへと変換する。



“トップスプリンター御用達フレーム”という先入観のせいではないと思うが、このバイクが最も得意とするのは、やはり高速域からのさらなる加速だ。40km/hからでも45km/hからでも面白いほどグイグイと加速する。必死に前を引くライダーの背後からスッと斜めに飛び出して、風圧を一人で受けながら重いギアのダンシングで空気を切り裂いて突進するようなシーンにはうってつけだ。そんなアグレッシブな走りをしたくなる。



スプリント専用フレームだと思っていたので意外だったが、登りでもトルクフルな推進力でモリモリと進む。緩い斜面であれば平坦の勢いを持ったままクリアしてしまうが、これはパリッとした硬さではなくどっしりとした剛性感を持つバイクである。フレームのしなやかさを味方につけ、体重の軽さと回転力を武器に登坂に挑むスタイルのライダーにとっては、急斜面ではヒラリヒラリとした軽快感が薄いと感じられるかもしれない。



細かな凹凸を驚くほど良く吸収し、その剛性感からは想像も出来ないほどにフラットに走ってくれるのは炭素繊維+樹脂というカーボンの素材特性によるものだろう。 「とにかく硬い死ぬほど硬い!覚悟しな!」 と聞かされて身構えて乗った僕は、意外な快適性の高さに拍子抜けした。構造体としては硬いので段差などの大きなギャップを越えるとさすがにガツンという振動が伝わってくるが、一般的なロードバイクのレベルに収まっていると言える。プロのスプリンターといえども動力性能を犠牲にしない程度の快適性は必要とされるのだろう。



オーソドックスな進化理論がレーサーの本能をくすぐる



しかしながら、この硬さは脚にくる。どうしてもアグレッシブな走りをしたくなるので、ビギナーに毛の生えた程度の僕が調子に乗ってガンガン踏んでいるとすぐ乳酸が溜まってくるし、次の日には階段で膝がガクガクと大騒ぎだ。しかしあえて主観を入れさせてもらえば、個人的に惹かれてしまうのはこの種のバイクなのだ。なにより乗っていて楽しい。ハンドル下を握り締め、脚を全開にしてペダルを踏みつけて、目の前の風景が後方へと吹き飛んでゆくあの魂を揺さぶるような感覚を感じれば、その存在自体に意味があるとさえ思う。



僕らはプロじゃない。ヒルクライムのタイムが収入に直結するわけではないし、レース結果が人生を左右することもない。だけど自転車という乗り物を、出来るだけ速く、風のように走らせたいと願ってやまない。これは理屈ではなく一部の自転車乗りの本能であり、だからこそ僕は 「ロードバイク」 には闘いの匂いが、血の気が欲しいと思う。ペダルにシューズをカチリと嵌めて力を込めた瞬間に、鼻の奥から脳へピリッっと抜けるあの刺激が存在することを願う。そんなサイクリストに備わる本能をさらに駆り立ててくれるバイクが、コルナゴ・エクストリームパワーという一台だ。



この乗り手の筋肉を絶つことも厭わないほどのスピード第一主義は、「ロングライドをイージーに」 という近年の流れの中で、ロードレーサー本来の輝きを放っているように思えてならない。

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