3月に会ったとき、練習後の体重は約78kgと話していた。試合までに5.5kgほど体を絞る。減量について「まあ問題ないです」と余裕の表情を見せ、苦労することはほとんどないという。世界を目指すプロボクサーが体重コントロールで手間取っているわけにはいかない。
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だが、試合前の計量に向けて食事制限は必要になる。トップアスリートにとって食事の重要性は言うまでもないが、村田はどんな部分に気をつけているのだろうか。
「基本的にはお米とか食べられたら動けるはず。お肉とか言いますけど、基本的に(体を)動かすものは糖質だったりするので、特にトレーニングのときに必要なものを食べる感じです」
村田の答えは簡単明瞭だ。動くために必要なものを食べる。高強度のインターバルトレーニングを行うときには炭水化物系を中心にする。そうしないとスタミナになるグリコーゲンもうまく働かないからだ。
「食べたくなるというよりは、何のために食べるか、ということを考えて食べていますね」
キツいトレーニング後にはプロテインも飲むが、試合が近づくとあまり飲まなくなる。
「でも、そういうときこそ本当は必要なんでしょうけど。要するに余分なもの無く、必要な栄養素を摂るっていう。色んなものを省くわけじゃないですか。ゼリー系のものなら消化吸収への負担も少なくできるんでしょうし」
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ボクシングについて語る村田には独自の哲学を感じることが多いが、食事で何を食べるか、何を飲むかという選択にも彼ならではの考えがある。村田は減量でも苦しまないため、試合で勝ったからといって特別なごちそうを用意することもあまりない。ボクサーならではのエピソードを教えてくれた。
「これは“ボクサーあるある”なんですが、試合前に何を食べよう、あれを食べようってみんな考えるんですよ。で、雑誌とか買ってきて『ここのお店に行こう!』とか思うんですけど、結局どこも行かずにありきたりなものを食べて、腹が満たされたら満足って(笑)」
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昨年、初めて村田に会ったときのことだ。体も大きいミドル級の選手だけに、ボリュームのある牛肉などが好きかと思いきや、「好きな食べ物はミカン」と意外な答えが返ってきて思わず笑ってしまった。子どもと一緒に食べるのがいいらしい。
今年も春先まで大事に食べており、「冷蔵庫に最後のが来てるんですよ。これで最後なんですよ、もう作っていなくて。最後のやつ美味しいですよ。でももう無くなりますね、あと2、3日で…」とシーズンの終わりを残念がっていた。ミカンは子どものために、奥さんがふるさと納税で頼んでくれている。
プロボクサーは常にストイック、食事も日頃から我慢するかというと、そうではない。村田の先輩でWBC世界バンタム級チャンピオンの山中慎介(帝拳)は食べ歩きが趣味で、「季節の食べ物」が好きだと話していた。もちろん試合が迫ると節制はするが、普段は自分が好きなものを食べることで、それが活力につながるのだろう。
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4月上旬の段階では「今の時期に減量をしてしまうと、(練習が)ハードになっているので筋肉を消費して練習するようになってしまう」ために、甘いものを控える程度にとどめていた村田。
これから試合までに体を絞る。5月20日には鍛え上げられた村田の筋肉がスポットライトの下で輝いていることだろう。
(R5へ続く)
●村田諒太(むらた りょうた)
1986年1月12日生まれ、奈良市出身。帝拳プロモーション所属。2012年にロンドン五輪ボクシングミドル級で金メダルを獲得して脚光を浴びる。アマチュア時代の成績は137戦118勝89KO・RSC19敗。2013年8月にプロデビュー。以降、2016年12月のブルーノ・サンドバル戦まで12戦全勝(9KO)。