総合格闘技イベント『UFC210』が米国ニューヨーク州バッファローで4月8日に行われ、メインイベントのUFCライトヘビー級タイトルマッチで王者のダニエル・コーミエが挑戦者のアンソニー・ジョンソンを2ラウンド3分37秒で下した。
敗れたジョンソンは試合後に引退を宣言している。
■序盤から予想外のレスリング勝負に持ち込んだジョンソン
ともにレスリング出身のコーミエとジョンソンだが、打撃に定評があるジョンソンの強打をコーミエが掻い潜り、テイクダウンしてコントロールできるかが戦前の注目だった。
しかし、実際の試合では序盤からジョンソンがレスリング勝負を仕掛け、テイクダウンを狙っていく。ジョンソンは第1ラウンドに前蹴り、関節蹴り、パンチのワンツーと打撃のコンビネーションを見せて組みつく。そのまま金網に押しつけながらテイクダウンを狙ったが、尻餅をつかせたのはラウンド終了のブザーが鳴ったあとだった。
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得意のレスリング勝負で優勢に立ったコーミエ
(c) Getty Images
第2ラウンドもテイクダウンを狙うジョンソン。今度は時間内に倒したがすぐに立たれ、逆にコーミエがテイクダウンしてバックを取る。やはりレスリング勝負ではオリンピック入賞経験もあるコーミエが一枚上手。バックに回ったコーミエはパンチで削る。パンチの威力も最初はコツコツというものだったが、徐々に力を込めガツンガツンと当てていく。
意識が朦朧としたかジョンソンは首を取られ、リアネイキッドチョークで一本負けした。
レスリングの実績では上のコーミエ相手に、序盤からテイクダウンを狙う不可解な戦いを見せたジョンソン。試合後のインタビューでは、「何も言い訳はありません。自分より強い相手と戦って負けました」とコメント。ひとしきりコーチを探すも見つけられないと、会場に詰めかけたファンに「みんな大好きだよ。なぜ大好きかというと、大好きだからさ」と語りかけた。
そしてジョンソンは涙ぐみ「これは自分にとって最後の試合だと思う」と唐突な引退宣言を始めた。
「(UFC代表の)デイナ・ホワイトにも言っていない。みんなには感謝している」
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引退宣言を始めたジョンソン
(c) Getty Images
■新しいことを始める時期
コーミエに敗れてタイトル獲得に失敗したとは言え、直前まで3連勝していただけに、インタビュアーもまだ強いのにどうしてと驚いた。
「これからは新しい仕事をしようと思うんだ。MMA(総合格闘技)には関係ない仕事だ。新たに前進を始めないといけない時期が来たんだと思う。もう人をパンチしたり、グラップルしたりするのは終わりだ。だけどUFCでの戦いは楽しかったよ」
関係者やファンにお礼を述べていくジョンソン。最後はリングサイド席に座る元ライトヘビー級王者ジョン・ジョーンズを指さし、「次はお前が頑張れ。お前はブーイングより歓声を受けるべき選手だ」と激励。オクタゴン復帰を目指す元絶対王者の尻を叩いた。
対するコーミエはジョンソンの打撃を受けた鼻について、「折れたかもしれない」とコメント。「だけど問題ない。俺はファイトマネーを稼いだしタイトルも防衛したんだからな」と観客を煽った。
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ジョンソンの引退を惜しむコーミエ
(c) Getty Images
「(ジョンソンがレスリングで来ることは)予想外だった。第1ラウンドは取られたかもしれないが問題ないと思った。彼は力のある選手だけど試合中にパニックを起こすことがあるんだ。そういうときは自分のベースになっているレスリングに頼ってしまうのかもしれない。実際2度テイクダウンされた。だけどそれだけじゃダメだ。立たせないように押さえつけないと」
「グラップリングでは自分のほうが上だということを見せられたと思う」とコーミエ。得意のレスリング勝負で勝てたことには満足していた。
「だけどジョンソンにはまだ引退してほしくない。彼は素晴らしいファイターであり、ジェントルマンだ。まだMMAで素晴らしいファイトを見せられるはずだ」
試合後の記者会見でも引退の意思は堅いことを繰り返したジョンソン。さよならだけが人生さと悲しいことを言いたくはない。だが一世を風靡したファイターたちが、リングを降りたあとの健康問題に悩まされているのを見るたび、健康なうちにセカンドキャリアへ進めるのは幸せなのかもしれないとも感じる。
ジョンソンの今後に幸多からんことを祈る。