シュート体勢に入った相手が不意に目の前に現れたら、ゴールキーパーはまずお手上げだろう。まさに絶体絶命のピンチで、湘南ベルマーレの守護神・秋元陽太は驚くほど冷静に状況を見極めていた。
■28歳、遅咲きのゴールキーパー
ホームにサンフレッチェ広島を迎えた、5月30日のJ1ファーストステージの第14節。両チームともに無得点で迎えた、後半開始直後だった。
夜露に濡れたピッチがスリッピーな状態となっていたからか。左サイドからサンフレッチェのMF柴崎晃誠が送った低空クロスが、ワンバウンドした後に予想以上に勢いを増して伸びてきた。
クリアしようとしたベルマーレDF三竿雄斗の頭をかすめて、ボールは後方にいたFWドウグラスに当たってその前方へこぼれる。図らずも生まれた秋元との1対1の状況。27歳のブラジル人ストライカーは迷うことなく左足を振り上げている。
その瞬間、秋元は膨大な経験という引き出しのなかから、必要なデータを迅速かつ正確にアウトプットしていた。
「僕が愛媛FCでプレーしているときに、ドウグラスも同じJ2の徳島ヴォルティスでプレーしていたんです。けっこう対峙しているので、ボールの持ち方などもわかっていた。なので、シュートコースを潰せば大丈夫だと思っていました」
間髪入れずに飛び出してきた秋元の勇気と大きな体が、ドウグラスの一撃を弾き返す。PKを止めるよりも難易度の高いスーパーセーブ。7月で28歳になる遅咲きのキーパーの咆哮が、湘南の夜空に響いた。
愛媛FCで全42試合に先発フル出場を果たした2012年シーズンのオフ。ベルマーレから届いたオファーに対して、秋元は断りを入れている。当時は強化部長を務めていた大倉智社長が振り返る。
「秋元自身もいろいろなビジョンを描いていたみたいなので」
中学時代から横浜F・マリノスの下部組織で育ち、2006年シーズンからトップへ昇格した。しかし、名門チームの厚い選手層の前に、6シーズンでリーグ戦出場は5試合にとどまってしまう。
《藤江直人》
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