祝福しようと駆け寄ってきたチームメイトを振り払って、湘南ベルマーレのFW高山薫はピッチの外へ向かってダッシュを開始した。
グングンと加速して距離を縮めた先は、チームカラーのライトグリーンで染まったゴール裏。大勢のサポーターが両手を広げて、歓喜の雄叫びをあげながら背番号『23』を待っている。
ホームにサガン鳥栖を迎えた4月29日のJ1第8節。誰よりも高山本人が待ち焦がれてきたゴールが決まったのは、1対1の膠着状態が続いていた後半19分だった。
「何回かプレーが止まりそうなところで、自分のところにボールがこぼれてきた。あの瞬間はシュートを打つことしか考えていなかった。すぐに切れ込んだんですけど、ボールタッチのところで詰まってしまって。最初のタイミングでは打てなかったけど、ボールをちょっとずつ触りながら、ベストのタイミングを見計らっていたのがよかった。さらに右へ流れていたら、おそらくダメでしたね」
■「何がなんでもゴールを決めてやる」
相手ゴール前に弾んだルーズボールを支配下に置こうと、ラグビーで言うラックのような状態のなかで、両チームの選手たちが激しい肉弾戦を繰り広げる。
主審がファウルを取ってもおかしくない状況で、ベルマーレのFW大槻周平がかかとでボールをかき出す。これを受けた高山は、再び密集地帯のなかへドリブルで突っ込むプレーを選択した。
意表を突かれたサガンの選手たちは反応できない。細かいステップを踏みながら右へ移動していく高山の背中は、執念にも近いオーラを発していた。何がなんでもゴールを決めてやる、と。
右足を振り抜いた後はバランスを崩し、勢いあまって転倒しながら、強烈な弾道がゴール右隅に吸い込まれていく光景を脳裏に焼きつけた。敵地で行われた4月3日のモンテディオ山形戦で、今シーズンの初ゴールをすでに決めている。ならば、何が高山をゴール裏へと疾走させたのか。
「かなり久ぶりにホームで点を取ったので」
高山のこの説明には、ちょっとした補足が必要だ。確かに高山がホームでゴールを決めたのは、2013年5月11日のFC東京戦以来となる。2年近いブランクが生じた理由は、昨シーズンを柏レイソルでプレーしていたからに他ならない。
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《藤江直人》
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