「怪物」
松本山雅がJ2を戦っていた昨年8月のこと。天皇杯3回戦でFC東京に挑み、0対2のスコア以上の完敗を喫した反町康治監督は、J1の強豪クラブとの実力差をひとりの選手に帰結させている。
「ああいう怪物がいたら(ウチが勝つのは)簡単じゃない。ボールへのアプローチの速さ、ボールを奪う力、プレスバックとすべてにおいて抜きん出ていた」
経験豊富な指揮官が最大級の賛辞を送った相手はMF米本拓司。90分間を通じて攻守に絡み続けた運動量を含めた、ピッチ上のすべてのパフォーマンスが異次元に映ったのだろう。
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米本拓司(2012年)
■身内からも沸きあがる日本代表に推す声
FC東京の先制点も、米本の強烈なミドルシュートがバーを叩いたこぼれ球から生まれている。反町監督はこう付け加えることも忘れなかった。
「視察に来ていた白髪のおじさんも選ぶでしょう」
白髪のおじさんとは、日本代表監督に就任したばかりのハビエル・アギーレ氏。米本を日本代表に推す声は、実は身内からも沸きあがっていた。
「ボールを奪う力に関しては、米本はJリーグのなかで突出している。今回のワールドカップに出場した、セレッソ大阪の山口蛍くんよりも上でしょう」
FC東京の立石敬之強化部長(現ゼネラルマネージャー)も期待を込めていたが、なぜか「怪物」に声がかからないまま、アギーレ氏は今年2月に八百長疑惑騒動で契約を解除されている。
もっとも、周囲の喧騒とは対照的に米本は泰然自若としていた。
「代表を意識するとケガをしちゃうので、まずはチームでしっかりとやらないと」
決して謙遜しているわけではない。米本はその左ヒザに選手生命を左右しかねない大ケガを2度も負い、そのたびに壮絶なリハビリを自らに課してはい上がってきた。
【苦労人・米本拓司が立ったロシアへのスタートライン 続く】