途中、プラモデル屋があったり、オサレなカフェがあったり、東京タワーがあったり…と、あちこち寄り道をしたくなる誘惑に負けずに歩き、虎ノ門ヒルズの交差点を左に折れてほどなくすると、立派な鳥居と壁のような石段があった。山頂に愛宕神社が祀られている「愛宕山・あたごやま」である。
愛宕山は、江戸時代から景観の素晴らしさで有名だったという。当時は今のようにビルが乱立してなどいないから、さぞかし遠くまで見渡せたであろう。現在でも、「23区の自然峰としては最高峰」との記述がオフィシャルサイトにあるが、都会のビルの群れに埋もれ、景観らしきものは皆無である。
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取材時は、初詣の参拝客で混雑
■出世の石段
大きな鳥居と壁のような石段を目の前に、「登山開始」と気持ちを引き締める。標高わずか25.7m。明らかに石段の先が山頂なのは分かるのだが、この石段がなかなかの急勾配だ。
「男坂」という名前が付いたこの石段は、「出世の石段」として知られている。その名の由来は、「寛永三馬術」という講談になって残っているので、出世したい方はぜひそちらを聞いてほしい。
聞いたら聞いたで、別の出世の道を探すことになると思うが。この石段が、筆者の前に壁のように立ちはだかったのは、出世というものが筆者の人生にとって、「乗り越えることのできない壁」であるからに違いない。
出世はさておき、愛宕山である。愛宕神社には、他にもたくさんの歴史やご利益があるのだが、その辺を全て書くと長くなるので今回は割愛させていただくとして、都心のオアシス的なその佇まいは、心穏やかに散策を楽しませてくれるスポットであった。
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愛宕山の三角点。弁財天の付近
お参りをした後、境内にある三角点を確認し、ピークハント達成。出世の階段にげんなりはしたが、都会のど真ん中の小さな山を歩いて、心が少しほっこり。その後は、上野の街をのんびりと歩き、上等な肉を食べて顔がにんまり。果ては、鈴本演芸場で江戸の大衆娯楽に触れ、笑いすぎてぐったり…。
出世の道はまるで見えなくとも、しょんぼりすることなく生きていこうと心に決めた東京23区の低山の旅であった。