また「富士は仰ぎ見る山、筑波は登る山」という言葉もある。この言葉によると、筑波山は見た目はそうでもないと思われてしまいそうだが、そうではない。東の女体山(標高877m)と西の男体山(標高871m)の双耳峰は、どこから見ても美しい姿をしている。紫峰という雅称が付いていることからも、山の美しさがうかがえる。
■筑波山と和歌
茨城県民はもとより、全国的にも有名な筑波山は、それこそ古くから有名であった。奈良時代初期に編纂された茨城県の地誌「常陸国風土記」にも、当時の筑波山の様子や富士山との対比が書かれている。他にも、多くの人々が筑波山で歌を詠んだと書かれてもいて、筑波山は歌垣の場であったことがわかる。その実、万葉集にも筑波山を題材にした歌が20数首も載せられている。

地域によって見え方が違うのも興味深い
和歌の中でも有名なのが、後撰和歌集に載せられている陽成院の「筑波嶺の 峰より落つるみなの川 恋ぞ積もりて淵となりぬる」という歌。こちらは百人一首にも採録されている。
■筑波山と古典落語
この歌から派生した落語に「無学者」という噺(はなし)がある。これは、「ちはやふる」と似たような噺で、百人一首の珍解釈になっており、筑波山が舞台ではないが、陽成院の歌がネタになっている。
筑波山と落語といえば、「蝦蟇(がま)の油」を忘れてはならない。「さあさ、お立ち会い。御用とお急ぎでない方は、ゆっくりと聞いておいで」の口上で有名なガマの油売りの噺であり、呑んだくれの噺でもある。 ガマの油売りは、「高田の馬場(仇討ち屋)」という噺にも登場している。現代でいえば、役者・役所広司の映画初監督作品は「ガマの油」であった。
■筑波山とガマ
筑波山といえば、「ガマ」である。それを強烈に印象付けるのが、つつじヶ丘にあるガマランドだ。ガマガエルのオブジェに、ガマの洞窟、油売りの看板、ガマ大明神…。至るところに、ガマだらけ。

つつじヶ丘のガマ大明神
このように、古くは地誌やら歌やら落語やら、さては現代では映画までと、時代を超えて人々に親しまれた山が、筑波山である。
茨城県民ならば、筑波山には小中学校の遠足で登ったという人が多いだろう。そして、大人になってから改めて筑波山に登ってみたら、「意外と険しくてきつくて、しんどかった!」という感想は、茨城県民の「あるある」である。
さぁさ、お立ち会い。筑波山に久しく登っていない方は、これを機会にゆっくりと登っておいで。