序盤はカーンがスピードで翻弄し主導権を握ったが、徐々にプレッシャーをかけるアルバレスが追い詰める。そして第6ラウンド残り23秒、思い切り踏み込んだ右のオーバーハンドが正確にカーンのアゴを打ち抜いた。カーンは後頭部をマットに打ちつけ、ピクリとも動かないまま焦点の定まらない眼でT-モバイル・アリーナの天井を見つめる。
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アルバレスの一撃に沈むカーン
衝撃的なダウンを受けてレフェリーはすぐに試合を止めた。驚愕、戦慄、興奮。さまざまな感情がない交ぜとなりながら会場に詰めかけた観客は勝者に拍手喝采を贈った。
相手にペースを乱されても焦らず、1ラウンドごとに追い詰めていき、最後は狙いすました一撃で終わらせる。2016年ベストKO候補のノックアウトに1万6000人を超える観客は酔いしれた。そしてこう思ったのだった。
次はゴロフキン戦しかない。
■ミドル級最強の呼び声も高いゴロフキン
格闘技にはパウンド・フォー・パウンドという概念がある。平たく言えば「全員同じ体重だとしたら誰が一番強いか」という話だ。もちろん現実には体格差があるため『たら・れば』の話でしかない。しかし、いつの時代もファンはこの『たら・れば』を真剣に考えてきた。
現在パウンド・フォー・パウンドで最強候補の一角に挙げられるのがWBA世界ミドル級スーパー王者、WBC世界ミドル級暫定王者、IBF世界ミドル級王者に君臨するゲンナジー・ゴロフキンだ。
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ゲンナジー・ゴロフキン
GGG(トリプルG)の愛称でも呼ばれるゴロフキンは、プロデビュー以来35戦負けなし32KOの圧倒的なレコードを誇る。2010年8月にWBA世界ミドル級暫定王者を獲得、のちに正規王者と認定され現在まで16度の防衛を果たしている。しかも、すべての防衛戦がKO勝ち。世界タイトル16試合連続KO防衛は、1970年代に活躍したウイルフレド・ゴメスの17連続に次ぐ記録だ。
アルバレス対ゴロフキン戦は現在、世界のボクシングファンが最も観たい夢のカードであり、ペイ・パー・ビュー(PPV)販売不振に喘ぐボクシング界に残された最強の切り札でもある。
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