以前も少し書いたが、現在のボクシングはテレビの有料放送、いわゆるPPVの販売不振が続いている。理由は2015年5月に行われたフロイド・メイウェザー対マニー・パッキャオ戦だ。
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ともに2000年代のボクシング界を代表するアイコンとして、絶大な人気を誇ったメイウェザーとパッキャオ。「5年遅い」とも言われたが、2015年ようやく直接対決が実現した。
このビッグマッチを関係各所は総出で盛り上げた。試合前から“世紀の一戦”と煽り、大々的に宣伝した甲斐もあってPPVは飛ぶように売れた。当然のごとく史上最多記録を更新したが、この狂乱とも言える盛り上がりは危うさも孕んでいた。近年のメイウェザーは『ファイトしないチャンピオン』の代名詞になっていたからだ。
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パッキャオ(右)対メイウェザー
異次元のスピードと抜群のディフェンス技術を生かし、安全圏からリスクを冒さずポイントアウトするメイウェザー・スタイルは、ボクシングファンの間でも賛否が分かれた。拍手喝采を贈る者もいれば、巧いけど強さは感じないという声もあった。
普段ボクシングのPPVなど購入しない視聴者が想像する、『キャリア無敗の名チャンピオン』のイメージとは、おそらく真逆の試合をするのがメイウェザーだったのだ。面白い試合になる可能性としては序盤にパッキャオが得意の左を当て、メイウェザーを慌てさせる展開が考えられた。ほぼそれしかなかった。だが試合は終始メイウェザーのペースで進み、危惧されたとおりノーリスクでポイントアウト。
さらに試合後、パッキャオが敗戦の理由に右肩の負傷を挙げたため、高額のチケットやPPVを買った人々から批判が噴出。以後ボクシングのPPV販売は低空飛行が続く。
この状況を打破する切り札とも期待されたのが2015年11月に行われた、アルバレスとミゲール・コットのWBC世界ミドル級タイトルマッチだ。試合はアルバレスが判定で勝利しミドル級タイトルを獲得。人気者どうしの試合はPPV販売数90万件を記録した。
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アルバレス(右)対コット
普通の試合ならこれだけ売れれば十分だが、今回は業界的にも期待を込め注視されたビッグマッチ、両選手にも高額なファイトマネーが支払われていた。それを考慮すると大成功とは言いがたい。
短期的な利潤や刹那の喝采を追い求めすぎると、中長期的にはブランド価値や信用を毀損してそっぽ向かれる危険性があるという、人気商売に生きる身としては耳と心の痛くなる状況が今のプロボクシング周りでは続いている。
■2010年代の主役を決めるオーディション
“世紀の一戦”が“予期された凡戦”で終わってしまったことに端を発する売り上げ不振。この状況で潮目を変えられるとしたら、もはやアルバレス対ゴロフキンしかないだろう。そう感じさせるくらいふたりの対戦には魅力がある。
このふたりが戦えば単純明快、どちらかが高確率で倒れる。ミドル級のウェイトで強敵をマットに沈めてきたゴロフキンに対して、アルバレスは155パウンドのキャッチウェイトでしか戦ったことがなく不利も予想される。だが、それでも観客が強く望めば倒しに行くだろう。結果としての判定はあっても、メイウェザー対パッキャオの失敗を繰り返す姿は想像できない。
対してゴロフキンも絶対に倒したい。もしアルバレス相手に17連続KO防衛のタイ記録を達成できれば、2010年代を代表するボクシング界の顔になれる。
両選手やる気満々のドリームマッチ。だがプロモーターやテレビ局、認定団体の思惑なども絡み、大人の事情で今後どうなるか不透明な部分も多い。実現にはさまざまな困難も予想されるが、ゴロフキンがアピールするように今年9月の対戦はあるか注目していきたい。