2015年最後の試合を勝利で締めくくっても、相変わらずシニシャ・ミハイロヴィッチ監督の解任論はくすぶったままだ。しかし、元イタリア代表DFアレッサンドロ・ネスタ氏は、ミランに必要なのは監督の首をすげ替えることではないと話す。
「ミハイロヴィッチは素晴らしい監督だ。この数年で4人の監督がミランを率いたが、いつも監督が問題だとは限らない。おそらく問題は別の場所にあるのだろう」
ネスタ氏が真に必要と考えるのは、「移籍市場での意識変革」だ。
「ミランには悪い癖があった。とても裕福な会長がいて、自らの資金をチームに提供することだ。今はそれができなくなっている」
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ACミランのシニシャ・ミハイロヴィッチ監督
■放漫経営の代償を払わされるセリエA
ネスタ氏が指摘するのは数年前から導入された、ファイナンシャル・フェア・プレー(FFP)制度の存在だ。これによりセリエAのクラブは、赤字をオーナーのポケットマネーで埋めることができなくなった。
セリエAのクラブは赤字経営が当たり前、大富豪のオーナーがポケットマネーで補填したうえ、スター選手を買い漁るということを何年も繰り返してきた。そうした放漫経営の代表格がミランだ。
メディア王シルヴィオ・ベルルスコーニ名誉会長のもと、潤沢な資金を武器に大型補強を繰り返し続けた。ベルススコーニ氏が1986年にミランを買収すると、それまで低迷していたチームは2シーズンで1部優勝を果たす。
さらにベルルスコーニ氏は補強を続け、1980年代後半にはミラン黄金期の代名詞ともなったルート・フリット、マルコ・ファン・バステン、フランク・ライカールトのオランダトリオが完成。ミランは1988-89、1989-90と2シーズン続けてUEFAチャンピオンズリーグを制した。
もともとミランの大ファンだったベルルスコーニ氏は、クラブの経営状態には目もくれず、とにかく強くすることだけを考えた。しかし、そうした不健全なクラブ運営は問題視され、是正措置が取られるようになる。
■他クラブに比べて遅れるミランの復活
ヨーロッパサッカー連盟(UEFA)のFFP導入でセリエAのクラブは大きな影響を受けたが、それでも徐々に立ち直ってきたチームもある。今シーズンのチャンピオンズリーグでは、ユベントスとローマが16強入りを果たしている。ヨーロッパリーグでもナポリ、ラツィオ、フィオレンティーナがラウンド32に進んだ。特にナポリはグループを全勝で突破している。
もともと豊富な資金力を誇り、セリエAクラブの中でいち早くスタジアムの自前化に成功したユベントスは別格としても、そのほかのクラブはFFP導入に適応しながら変化を受け入れ復権の道を歩み出した。
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ミハイロヴィッチ監督と本田圭佑
そうしたクラブに比してミランの動きは鈍く、時代の流れに対応できていないとネスタ氏は危惧している。ミランは考え方を改めるべきだと提言した。
「少額の資金で移籍市場に臨むような、構造とメンタリティがミランにあるとは思えない。若いタレントを見つけ出すため、世界的なスカウト網を構築するべきだ。以前のような出費はできないので、メンタリティを変える必要がある」
■FFP制度が日本にもたらした恩恵とは?
セリエAの屋台骨を揺るがしたFFPの導入だが、一方で日本のファンには恩恵をもたらした。ここ数年で欧州のビッグクラブがオフシーズンのアジアツアー、北米ツアーを精力的に行うようになったことだ。
FFPの導入で経営の黒字化を迫られたクラブが、アジアや北米のマーケット拡大を狙ってのこと。FFPではスポンサー収入や、グッズ販売も『純粋な利益』に含まれる。そのためサッカー人気が高いアジアの国や、マーケットが成長している北米へのアプローチを強めている。
長距離移動と試合を繰り返す選手は大変だが、FFPの導入で日本のサッカーファンはより世界を間近に感じられるようになったとも言える。