1試合の平均プレー時間は約64分。限られた時間のなかでチームに勝利をもたらすゴールを求め、味方のゴールにつながるプレーを献身的に演じ、代わりにピッチに入る20歳のホープ、浅野拓磨の背中を押すように笑顔でバトンタッチを交わしてきた。
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日本中がJリーグブームに沸いた1993年シーズン。当時小学校6年生だった佐藤は、二卵生双生児である兄の勇人(ジェフ千葉)とともにテレビ中継を夢中になって見ていた。
画面の中で躍動するヴェルディ川崎のFW三浦知良(現横浜FC)の華やかさよりも、日本代表で大活躍したジュビロ磐田のFW中山雅史(現JFLアスルクラロ沼津)の泥臭さよりも、佐藤の胸を打つものがあった。
「カズさんやゴンさんが、イエローカードをもらった記憶がほとんどない。フェアであって、あれだけゴールを決めていれば、それはもう子供たちにとってのスーパースターですからね」
時は流れ、今シーズンの開幕直後に33歳になった。かつて佐藤を魅了したカズやゴンと同じ立場に、いわゆるベテランの域に達した佐藤は次の世代へ、未来のJリーガーを夢見るジュニアたちの世代へ、20年以上も前から受け継いできたフェアプレー精神が伝わっていってほしいと願わずにはいられない。
「自分の2人の息子もサッカーをやっているので、やっぱり結果だけ出せばいいというわけではなくて、フェアプレーの上で結果を出すことが大切と思ってもらえるためにも、今回の受賞は意味がある。サッカーにおいて相手を傷つける行為はまったく必要ない。ピッチの上でお互いが持っているものをフェアに出し合わなければ、見ている人も楽しめない。だからこそ僕は相手のディフェンダーを常に尊重してきたつもりですし、その姿勢はこれからも変わらない。
カズさんやゴンさんまでのスターになることは難しいけど、少しでも2人のレベルに追いつけるようにしたい。まだまだ大勢の素晴らしいディフェンダーがいますけど、そういう選手の上、さらに上を常にいけるように上積みしていきたい」
個人4冠を独占した2012年のオフに語った壮大な目標は、もちろんいま現在も変わらない。
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敵地で行われる11月7日のガンバ大阪戦で勝ち、鹿島アントラーズが引き分け以下ならばサンフレッチェのセカンドステージ優勝が決まる。
ヴァンフォーレ戦での勝利で年間総合順位の3位以内を決めて、年間王者を決めるチャンピオンシップへの出場権をすでに獲得した。勝ち点68で並ぶ浦和レッズの結果次第では、チャンピオンシップ決勝へ自動的にシードされる年間総合1位の座も次節で手にできる。
もちろん、あと中山のもつJ1歴代1位の「157」ゴールにあとひとつと肉迫したまま、6試合、計430分間にわたって無得点が続いている状況を打ち破る瞬間が訪れることも、ファンやサポーターは期待を込めて待っている。
残り2試合。激しく、熱く、それでいてカードの対象となる行為とは明らかに一線を画すプレーを自らに課しながら、佐藤は怯むことなく相手ゴール前の危険地帯へ飛び込んでいく。
余談になるが、佐藤が残り2試合に出場し、イエローおよびレッドのカードをもらわなければ、通算4度目となるフェアプレー個人賞を授与される資格を得ることになる。