それでも、サンフレッチェ広島のFW佐藤寿人は躊躇することなく、右サイドから上げられた山なりのクロスに飛び込んでいった。
184cmの河田に対して佐藤は170cm。身長差で14cmも劣っていることも、手を使えるGKが有利なこともすべて承知の上。競り合えば必ず何かが起こる。佐藤の執念が河田の体勢を崩し、パンチングを中途半端なものにさせる。
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佐藤寿人
ペナルティーエリアのすぐ外側でボールを拾ったMF清水航平がクロスを入れる。MFドウグラスのシュートをヴァンフォーレ守備陣が必死にブロック。偶然にも目の前に転がってきたこぼれ球に、清水が今度はシュートを狙って右足を思い切り振り抜く。
河田の右足とゴールポストの間、ボール一個分ほどの狭い幅をすり抜けた弾道がネットに突き刺さる。敵地で10月24日に行われたヴァンフォーレ戦の前半30分に飛び出したダメ押しの2点目が、サンフレッチェのセカンドステージ優勝に王手をかける勝利を確定させた。
清水の頭をなでながら、佐藤が祝福に駆けつける。本人は知るよしもないが、実は得点シーンの直前に、佐藤がちょうど6年間にわたって継続させてきた「偉大な記録」が節目を迎えていた。
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佐藤は2009年10月25日に行われた川崎フロンターレ戦の後半36分を最後に、イエローカードをもらっていない。6年の間に193試合に出場。レッドを含めたカードにいっさい無縁のプレースタイルは、ヴァンフォーレ戦の前半29分で実に1万5000分に到達していた。
さかのぼること2006年から2009年にかけても、佐藤は84試合連続、時間にして7355分間にわたってカードをもらっていない。
公式記録として残っているものではないので他の選手との比較はできないが、Jリーグ史上で誰よりもフェアプレー精神を実践している選手と断言しても、異論を唱える者は誰もいないだろう。
【サンフレッチェ広島・佐藤寿人がフェアプレー精神を貫く理由 続く】