ホームにフロンターレを迎えた17日の一戦。キックオフ前の時点で、佐藤はJ1歴代2位の156ゴールをマーク。大久保に2差をつけて、ゴンこと中山雅史(現JFLアスルクラロ沼津)がもつ同1位の157ゴールに王手をかけていた。
注目された直接対決だったが、佐藤は無得点のまま後半14分にFW浅野拓磨と交代。キャプテンとして、1点をリードするチームの勝利をベンチからの声で後押ししていた。
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大久保嘉人
迎えた後半38分。佐藤に思わず拍手させるほどの豪快かつ芸術的な同点ゴールが、大久保の右足から放たれる。相手ゴールまでの距離は約25m。味方からパスを受けた大久保は、迷うことなく右足を振り抜く。
アウトサイドで強烈にこすり上げられた一撃はゴールに向かって左側へ飛び、次の瞬間、右へ大きくスライス。一度崩した体勢を必死に立て直した、相手キーパーの林卓人が伸ばした左手の先をかすめてゴールネットを揺らした。
「距離はあったけど、ミドルシュートには自信があった。どこからでもいいから、シュートを打てば何かが起こるから」
試合後にこう語った大久保はしかし、フロンターレに加入する2013年シーズンまではミドルシュートを不得手としていた。封印していた、と表現したほうが正確かもしれない。
「どうせ入らないし、だったらミドルシュートを打つのがもったいない、パスをつないで相手ゴールの近くまでいったほうが絶対にいいと思っていた」
プロとしての第一歩を踏み出したセレッソ大阪、スペインのマジョルカ、ドイツのヴォルフスブルク、そしてヴィッセル神戸で貫いてきたストライカーとしての信念。それをあっさりと捨てさせるだけの中盤の創造力が、フロンターレにはあった。
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元日本代表の中村憲剛や次代を担うホープの大島僚太を中心とするチームメイトたちが、次から次へとチャンスをお膳立てしてくれる。新天地の一員になってほどなくして、大久保はこう思うようになった。
「ここでは思い切ってシュートを打てるし、もし外したとしても、すぐにまたチャンスが来ると切り替えることができる」
必然的にミドルシュートも選択肢のひとつに加わる。ターニングポイントは2013年9月7日。浦和レッズとのナビスコカップ準決勝の後半34分に決めた同点ゴールだった。
約25mの距離から叩き込んだ豪快な一撃は、大久保自身にも衝撃を与えている。
「オレはアウトサイドにかけてミドルシュートを打つんですけど、そうするとキーパーはまず逆方向に動かされる。そこから必死に飛びついても届かない。ボールを持った瞬間に浮かんだイメージが、ドンピシャで現実のものになったのが浦和戦でのゴールだった。いまはシュートを打つ前に弾道をイメージすると、ホントにその通りに飛んでいく。自分のプレースタイルが広がった、という実感がありますよね」
【大久保嘉人がゴールに込める熱き想い 続く】