■現役最強ストライカーを支えた言葉「僕、下手くそですから」
そして、日本代表での通算ゴール数を歴代3位の「46」に更新しばかりの岡崎慎司。今シーズンから戦いの舞台をプレミアリーグのレスターに移した現役最強のストライカーは、ダイビングヘッドだけを頼りにしていた兵庫・滝川第二高校時代に、中山の口癖でもあるこの言葉に触発されている。
「落ち込んでもしかたがない。僕、下手くそですから」
当時の岡崎も、シュートやトラップは超のつく下手くそ。それでもプロを夢見て自らに猛練習を課していた日々で、偶然にもテレビ越しに見聞きしたのが中山のダイビングヘッドとコメントだった。
「自分がずっと大切にしてきたプレーを、プロのなかでもトップの選手がやっている。ものすごく希望がわいてきましたし、ゴンさんも自分のことを『下手くそ』と言っているじゃないですか。僕が目指すべき場所が、一気に明確になりました」
日本代表が悲願の初出場を果たしたワールドカップ・フランス大会を含めて、中山が長く自身の象徴としてきた背番号「9」を託されて7シーズン目。かつて中山が何度も実践したように、岡崎もまた相手キーパーへのバックパスへがむしゃらにプレスをかけ続ける。
徒労に終わることが多く、無駄に体力を消耗しかねないプレー。岡崎にこんな質問をぶつけたことがある。空しさを覚えることはないのか、と。
「もう体に染みついているので。それで体力がもたなかったら、もっと走り込めばいいだけのこと。限界までプレーしないと次につながらない。ちょっとでも手を抜いてしまえば、いまの自分というものは存在しないと思っているので」
■中山からの魂の系譜はさらに広がる
くしくも中山も、同じニュアンスのコメントを残していた。2001年のコンフェデレーションズカップ後のことだ。
「試合に出る以上は、自分のスタイルを貫くしかないですからね。途中から入った選手が、ダラダラするわけにはいかないでしょう。体を張らなきゃいけないし、流れを変えるというか、チームに喝を入れなきゃいけない。こんな僕でも、チームに影響を与えられれば最高に嬉しいですよ」
そして、中山を頂点とする魂の系譜に、アスルクラロの選手たちが加わる。
今後は両ひざを含めたコンディション調整を重ねながら、実戦へ向けた心技体を作り上げていく。復帰戦のターゲットは10月3日、ホームの愛鷹広域公園多目的競技場で行われるソニー仙台戦となる方向だ。
7試合を残すJFLで、ソニー仙台は年間順位で1位を走っている。アスルクラロは現在5位で、ファーストステージでは1対1で引き分けている。中山流に表現すれば、「便秘」の展開となるのは必至だ。
現役復帰にあたっての記者会見などは今後も行われない予定だが、中山がその胸中に抱いている思いは昔もいまもまったく変わらないだろう。
「まだ上手くなれるというより、上手くなりたい。もっと上のレベルを目指したい。向上心がなくなれば、その時点で終わりですから」
JFLにおける最年長出場記録は、FC東京などで活躍したFWアマラオ（FC刈谷）がもつ43歳と9日。大歓声を背に受けながら中山がピッチに入った瞬間、約6年ぶりに記録が更新されるとともに、不死鳥伝説の新たなステージが幕を開ける。
