虚ろな視線が見つめる先には、なでしこジャパンに逆転勝ちした韓国女子代表が狂喜乱舞している。先発フル出場した猶本の脳裏には、どのような思いが駆け巡っていたのか。
中国・武漢で開催されていた東アジアカップ。北朝鮮女子代表との初戦、そして8月4日の韓国戦で連敗を喫した瞬間に、なでしこジャパンの優勝の可能性が消滅した。
アイドル並のキュートなルックスで注目されてきた猶本は、自他ともに認める大の負けず嫌いでもある。試合後に発した短い言葉には、ボランチとして先発フル出場しながらチームに貢献できなかった悔しさとふがいなさが交錯していた。
「いま(の自分に)できるプレーはしました」
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猶本光
たとえば前半18分。FW有町紗央里(ベガルタ仙台レディース)が縦パスを落としたところへ走り込み、そのままドリブルを開始。ペナルティーエリアの外から左足で放ったミドルシュートは、惜しくもゴールバーの上を越えた。
後半12分には再びペナルティーエリア付近で、レッズのチームメイトでもあるMF柴田華絵と縦パスを交換。戻ってきたボールを、右サイドを駆け上がってきたDF京川舞(INAC神戸レオネッサ)へダイレクトで通してチャンスを演出した。
4分間が表示された後半のアディショナルタイムに突入する直前には、ドリブルでカウンターを仕掛けたMF横山久美(AC長野パルセイロ・レディース)の左側をトップスピードで並走する。
猶本の前には誰もいない。3人の韓国選手に囲まれ、ドリブルを止められた横山からパスが通れば確実にゴールを奪える状況を約40mのフリーランニングで作り出した。
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ミドルシュート。視野の広さが生かされたスルーパス。そして、90分間を終える時間帯でも全力でスプリントできるスタミナ。携えている武器を「自分の意思で積極的に出せた」からこそ、前出の短い言葉が口を突いたのだろう。
韓国・仁川で昨年9月に開催されたアジア大会以来となる、なでしこジャパンへの招集。中国入りする前に愛知・名古屋市内で行われた短期合宿で、猶本はこんな言葉を残している。
「今回がすべてではないので」
一聴すると「冷めている」あるいは「覇気が感じられない」言葉となるが、実際は違う。準優勝した女子ワールドカップのメンバーを6人だけにとどめ、キャップ数の少ない若手と中堅が数多く招集された今回のアジアカップをステップとして、21歳の猶本は未来への設計図を描いていた。
「これからなでしこに定着できるようにプレーしなきゃいけない、という気持ちでそう言ったんです」
【猶本光がなでしこジャパンに定着するために 続く】