ボランチの一枚が最終ラインに下がってビルドアップの起点となり、3バックの左右がさらに広がってサイドバック的な役割を担う。ゆえに攻撃参加のタイミングに関しては、塩谷は問題ないだろう。
■自分にできることを精いっぱいやることが一番
クサビの縦パスを入れるタイミングも熟知している。1対1における強さも、ボールを奪われた際の帰陣の速さも申し分ない。残された課題を、誰よりも代表候補合宿を終えた塩谷自身が自覚していた。
「やはりクロスを求められるポジションなので、その意味では精度がよくなかったですね」
ハリルホジッチ監督はピッチの中だけでなくピッチの外、たとえば宿泊先のホテル内でも選手たちとコミュニケーションを密にしてメッセージを直接伝え、考え方や性格などをもっと知りたいと熱望していた。たとえば塩谷には、練習後にこんな言葉をかけてきたという。
「クロスはどうだった?」
苦笑いしながら、塩谷が指揮官とのやり取りを明かす。
「『全然ダメでした』と答えたら『もっと練習しろよ』と言われました。僕自身はどちらでも(招集が)あると思っていたので、右サイドバックと言われても特に驚きはなかったです。センターバックだろうが、右サイドバックだろうが、変な話、フォワードで呼ばれようが、自分にできることを精いっぱいやることが一番だと思っているので」
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塩谷司
大学4年次に行われたワールドカップ南アフリカ大会は、サポーターの一人としてテレビ越しに応援した。選外となったこともあって、昨夏のブラジル大会は「結果だけしか見ていない」と無関心を貫いた。
「チームの練習もあったので。特に思い入れもなく、という感じでしたけど、3年後のロシアは年齢的にも自分のサッカー人生のなかで一番可能性のある大会だと思っている。26歳になる年(での代表デビュー)は遅かったかもしれないけど、早くから代表で活躍している選手に負けているとは絶対に思わないし、いままで歩んできた道に自信をもっているので。ロシアを一番の目標として、これからも日々努力していきたい」
稀代の闘将・柱谷氏の慧眼とともに幕を開け、日本サッカー界にボランチという呼称を浸透させた究極の黒子・サンフレッチェの森保一監督の指導力に引き継がれた塩谷のシンデレラストーリーは、ロシアでの大団円へ向けてクライマックスへと突入していく。