こうしてダマした人は星の数ほど。でもみんな劇的なほど人生が変わったとお礼を言ってくれる。
健康や地球環境への関心の高まりから、15年ほど前から日本でも自転車がブームだ。気軽に運動できること、燃料代が不要で排ガスも出ないことから、老若男女を問わずスポーツ系自転車が愛用されている。
ただし自転車の種類はさまざまなので、いざ専門店に足を運んでみるとどれを選んでいいものか悩んでしまう。そんなとき、自分にぴったりの自転車を見つけるためには、どんなふうに自転車を楽しみたいかをイメージしてみるのがひとつの解決策だ。
少し長めの通勤・通学で乗りたい。あるいは週末に散歩気分で乗りたいのなら都心部に強いクロスバイク。信号の少ない郊外の快適な道をハイスピードで疾駆したいならロードレーサー。オフロードをアクティブに走りたいならマウンテンバイクなどなど。
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サイクリストの聖地・西上州は11月中旬が紅葉真っ盛り
さらに重要なのは以下のポイント。せっかく買うなら愛着のわく1台を。お気に入りの自転車なら大事に乗り、日常の整備も怠らない。定期的な整備をすることで、いつまでも新品と変わらない快適な走行ができる。こうして自転車に乗る機会が増えれば、健康増進に一役買うことは間違いない。
そこで冒頭のアドバイスに戻るのだが、もちろん予算があるのでなんでもいいから買ってしまえというわけじゃないけど、自分のイメージにマッチするもの、そして愛着がわきそうなものを選べばまず間違いない。中途半端な買い物をしてしまうと、いざ走ってみるともの足りなさを感じるはずだ。
サイクリングコースを走っていたら軽量ロードに一気に抜き去られた。自分よりも確実に年齢が高い人なのに、元気はつらつと乗っているシーンをうらやましくながめる。こうしてすぐに次の1台に手を出す人を幾人も知っているから、あえて無謀なアドバイスをしてみたのだ。
「お気に入りの自転車があれば日常生活がさらに快適になる」。こう感じている人が増えているのは確かなようだ。
ボク自身が自転車の魅力を感じるようになったのは、小学校に入ってしばらくしてから。運動がそれほど得意ではなかったので、運動会の徒競走では確実に後ろのほうだった。クラスには脚の速い友だちがいて、そんな子たちと自転車に乗ったときのこと。不思議な体験をしたことを今でも鮮明に覚えている。
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フリーとして全日程を初めて取材した1997年ツール・ド・フランス。開幕日のルーアンにて
運動神経万能の友だちが自転車で前を飛ばす。ボクは「かなわないから」とその後ろを追走するのみ。「あそこまで競争な!」と友だちがけしかけてきてもボクは負けしかイメージできなかった。ところが前を走る友だちのスピードが伸びない。ボクは後ろでいつでも追い抜けるくらいに余力を持ってペダルにかけるパワーをセーブする。最後は追い抜くこともできたが、競争で勝った経験がないので友だちに先を譲った。「どんなもんだい!」と友だちはハアハア息を切らしながら笑顔を取りつくろっていた。
今考えると、あれは先行選手の背後に生じるスリップストリームを利用して、ボクは体力を温存させて走っていたからかもしれない。でも当時はそんな知識はなかったので、「徒競走はダメでも自転車ってボクに向いてるんじゃないかな!」と確信を持つことができた。部活動としては自転車部なんてなかったので、その後はツール・ド・フランスを目指すこともなかったのだが、生まれて初めて自信というものを覚えたできごとだった。
2014年2月に新連載として始まった本コラム。毎週欠かさず執筆して196回。およそ4年にわたっておつきあいいただきました。今回が最終回となります。ご愛読いただきありがとうございます。これからもみなさまの快適自転車ライフを応援しています。