「練習でも課題は出ますけど、やはり試合で出る課題のほうが多いし、試合に出ないと気づかないこともある。その意味では試合に出て、課題を見つけて、日々の練習に落とし込み、競争して、試合に出てまた新たな課題を見つけて、というサイクルがここではできている」
埼玉県浦和市(現さいたま市)で生まれ育ち、ジュニアユースから浦和レッズで心技体を磨き、2012シーズンにトップチームへ昇格。生粋の“浦和っ子”である矢島はプロ4年目を迎えた2015シーズン、生まれ変わりたいという一念でオファーを受けたファジアーノへの期限付き移籍を決めた。

矢島慎也 (c) Getty Images
選手層が厚いレッズにおける出場機会は時間の経過とともに減少し、2014シーズンにおけるリーグ戦出場はゼロに終わった。ベンチ入りもわずか7回。危機感が環境を変えることを決断させた。
「浦和のときも向上心がなかったわけではないんですけど、やはり試合に出ることで生まれる課題というものがあると思うので」
もちろん、J2だからといってすぐにピッチに立てるほど、サッカーは甘いものではない。2009シーズンから戦いの舞台をJ2へ移し、8位が最高位だったファジアーノにおいても矢島は悪戦苦闘を強いられている。
■ファジアーノ岡山で訪れた転機
ポジションはレッズ時代と同じシャドーだったが、FC岐阜との開幕戦で6分間出場した後は、4試合連続で出場機会なし。試合に絡めるようになっても、先発した13試合のうちフル出場は4回で、途中出場は7回。平均のプレー時間は約60分だった。
転機はちょうど1年前の7月22日、敵地に乗り込んだセレッソ大阪戦で訪れる。ポジションをボランチに移した矢島は、最終節までの18試合のうち、出場停止を除く17試合で先発。フル出場も14回を数え、平均プレー時間は約89分にはねあがっている。
シャドーを務めていたときは攻撃が最終ラインやワイドからのロングボール主体で、ワントップの選手が落としたボールやセカンドボールに対する準備ができていなかった。いわゆるオフ・ザ・ボールの動きが乏しかったうえに、走力を含めた運動量も足りなかったのだろう。

矢島慎也 (c) Getty Images
しかし、3試合連続勝ち星なしで、14位にまで順位をさげていたこともあり、ファジアーノは攻撃の再構築を余儀なくされる。そして、白羽の矢を立てられたのがテクニックに長けた矢島だった。
ボランチの位置で常にボールに絡む。パスの出し手として、そしてパスの受け手として。ゴールに絡むことを意識しながら、矢島は試合のたびに課題を見つけては消化し、再び試合に臨むサイクルのなかで成長のスピードを加速させてきた。
まずはパスの出し手としてはどうか。矢島は「常に首を振ることを意識している」とこう続ける。
「味方の動きの癖や、どこでボールを欲しがっているのかを把握するために、自分は首を振ることで周りを見ることを意識している。好き勝手に動いてくれて、そこで自分が合わせられればゴールにつながる。それは自分の特徴にもなっていると思う」
【次ページ 磨かれてきたプレー】