手渡された優勝トロフィーが、天へと掲げられる。それを合図として、頂点に立った選手たちが勝ちどきを響かせる恒例のセレモニーが、6月25日は趣がやや異なった。
■故郷熊本を想いトロフィーを掲げる
ナビスコカップや天皇杯を含めて、セレモニーの音頭はキャプテンが取ってきた。ファーストステージを制したアントラーズも、キャプテンのMF小笠原満男がJリーグの村井満チェアマンからトロフィーを受け取っている。
しかし、小笠原は次の瞬間、植田にトロフィーを託してゆっくりと後列へさがっていった。主役を任された植田が、照れ笑いを浮かべながら舞台裏を明かしてくれた。
「優勝を決めた直後から『熊本の方々がたくさん見ているから、お前がトロフィーを掲げろ』と言われていました。本当に(小笠原)満男さんに感謝したい」
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鹿島アントラーズの植田直通 (c) Getty Images
1994年10月24日に熊本県宇土市で産声をあげた植田は、地元の強豪・大津高校から2013シーズンにアントラーズへ入団。お披露目となる入団会見では自身を獰猛なワニにたとえて、周囲を驚かせている。
「ワニは獲物を水中に引きずり込んで仕留める。自分も得意とする空中戦や1対1にもち込んで、相手を仕留めたい」
186cm、77kgの筋骨隆々としたボディ。小学生時代はサッカーとの二刀流で挑んでいたテコンドーで、世界大会の舞台にも立った。高さと強さを身にまとう強面の九州男児が、ひと目をはばかることなく号泣したのは4月16日の湘南ベルマーレ戦後だった。
敵地で行われた一戦で、植田はセンターバックを組んだ日本代表・昌子源とのコンビで、ベルマーレ攻撃陣に何ひとつ仕事をさせなかった。3-0の完封勝利を飾り、お立ち台に呼ばれた直後だった。
「植田選手にとって、今日は特別な思いでのプレーだったと思います。胸の内を聞かせてください」
沈黙が続くこと数十秒。右手で必死に目頭を押さえても、とめどもなくあふれてくる涙を止めることができない。震えながらも何とか絞り出した声に、優勝への決意を込めた。
「僕にはそれしかないので…頑張ります」
■大地震が故郷を襲う
ベルマーレ戦の2日前。故郷がマグニチュード6.5、最大震度7の「平成28年熊本地震」に襲われた。幸いにも家族は無事だったが、時間の経過とともに甚大な被害が伝わってくる。
一夜明けた17日。午前中の練習を終えた植田は、アントラーズのフロントへ熊本行きを直訴。依然として余震が続いていたなかで、18日のオフを含めた1泊2日の強行日程を認めさせた。
被災地の力になりたいと思い立った植田に、小笠原、選手会長のDF西大伍、2年目のFW鈴木優磨をはじめとする若手も胸を打たれる。空路でともに福岡へ入り、陸路で熊本へ向かって飲料水や支援物資を届けた。実は地震が発生した直後から、小笠原はこんな言葉を植田へかけている。
「手伝えることがあれば何でもする。遠慮なく言ってくれ」
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