昌子とのコンビで鉄壁の守備網を築きあげ、ファーストステージの上位戦線につけていた4月のこと。好調の理由を植田にたずねると、こんな言葉が返ってきた。
「どの試合に出ても、余裕をもって前が見えていると自分でも思っている。やっぱり最終予選。あの試合を戦ってきたことで、余裕ができたのかなと」
他のJクラブの追随を許さない17個ものタイトルを獲得。常勝軍団の歴史と伝統が凝縮されたバトンを握ってきた37歳の小笠原は、かねてからこんな言葉を繰り返し残してきた。
「自分が若いころも上の人に支えられながら、タイトルを取って成長できた部分がある。タイトルを取らなければ見えてこないものがあるし、タイトルをひとつ取れば『またああいう経験をしたい』という気持ちも芽生えてくる。その積み重ねでチームは強くなっていく」
■リーグ優勝、そしてリオデジャネイロへ
ステージ優勝はタイトル数にカウントされないものの、前人未到の三連覇を達成した2009シーズン以来、7年ぶりに「リーグ優勝」と名のつくものを手にする軌跡は、すでにアントラーズのなかに化学反応を起こしつつある。
「優勝を決められる試合で、無失点で勝てたことが嬉しい。ステージ優勝ですけど、アントラーズとしてリーグのタイトルを取れていなかったので。タイトルを取ればみんなの意識も変わると思いますし、僕自身、もっとタイトルが欲しいという気持ちにもなっている。次はセカンドステージ、そして年間チャンピオンを狙って、頭を切り替えて新たなスタートを切りたい」
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鹿島アントラーズ対ウェスタン・シドニー戦の植田 (c) Getty Images
アビスパ戦は累積警告による出場停止で昌子を欠いていた。出場わずか3試合目となる20歳のブエノを引っ張り、勝ち取った優勝を喜んだのは一瞬だけ。植田は新たな課題を掲げることを忘れなかった。
「失点が二桁にいってしまったので、そこはまた改善しなければいけないところだと思う。セカンドステージでは、もっと減らしていかないといけない」
いざ、セレモニーの音頭を取る瞬間。優勝トロフィーを天へ掲げると見せかけて、植田はまるで悪戯小僧のようにフェイントを二度もかけては周囲を焦らしている。
「すべてクシ君の指示です」
背後にいたU-23日本代表のチームメート、GK櫛引政敏が耳元でささやいていたことを明かした植田は、表情を引き締めながら決意を新たにしている。
「満男さんやソガさん(GK曽ヶ端準)を筆頭に大勢の先輩に支えられていますし、まだまだ吸収していかなければいけないところもたくさんある。すぐに代表活動があるし、頭を切り替えていかないと。オリンピックのメンバー選考も大詰めなので。しっかりと自分をアピールしてメンバーに入れるように準備していきたい」
1月のU-23日本代表を戦ったセンターバックからは、岩波拓也(ヴィッセル神戸)と奈良竜樹(川崎フロンターレ)がケガで戦列を離れている。前者は間に合いそうだが、後者はリオデジャネイロ五輪を断念した。
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植田(5番)はU-23日本代表でも活躍 (c) Getty Images
手倉森監督はオーバーエイジ枠で塩谷司(サンフレッチェ広島)の招集を内定させたが、ケガといっさい無縁で、試合を重ねるごとに成長も遂げている植田が最終ラインの中心を担うことは間違いない。
29日にはU-23南アフリカ代表との国際親善試合が長野・松本平運動公園総合球技場で行われ、7月1日にはリオデジャネイロ五輪に臨む代表メンバー18人が発表される。
4年に一度のスポーツ界最大の祭典を戦い終えれば、年齢制限にとらわれないA代表での戦いへとターゲットが移っていく。すでにバヒド・ハリルホジッチ監督も、植田の存在を気に留めている。
「植田はかなりのポテンシャルがあり、パワーもある。A代表にはパワーが足りないので彼が必要だ」
2年後にワールドカップが開催されるロシアの地への、マイルストーンとなるかもしれないリオデジャネイロでの戦いへ。心技体のすべてを充実させながら、植田の熱い夏が幕を開けようとしている。