仏頂山の登山道序盤にも、それらの看板は他の山と同じようにあり、登山者に注意を促していた。だが、登山道を突き進んでいくと、それらとは趣の違った文面が多くなる。
・緑と風と光が織りなすハーモニーの中でリズミカルに歩こう。
・おいしい空気と楽しい語らいの思い出をおみやげに!
・自然のキャンバスの中で素敵なふれあいを見つけましょう。
・自然の中で思いきり深呼吸しよう。エンジョイ・ウォーク!
…といった具合に、通常の山の看板に書かれているような注意喚起の文面ではない。それらはまさに山の魅力を伝えるキャッチコピーであった。
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登山道を進むにつれ、ポエム要素が強くなる
上述したのは茨城県の仏頂山エリアの看板のコピーで、栃木県の高峰が近づくにつれ、看板の色と形が変わり、文面も変わってくる。
・豊かな自然が広がる茂木町は、歩いてこそ楽しい。
・四季折々のバラエティーに富んだ景色は、自然豊かな茂木町ならではのもの。
・遊び心一杯の茂木町で、家族そろって森林浴。
こちらは、茂木町推しのコピーである。コピー内に必ず「茂木町」と入れることで、グイグイと茂木町の魅力をアピールしてきている。
これはまずいぞ、茨城県。「PRベタ」という県民性がこんなところにも顕著に表れているのだ。かたや、おとなりの栃木県茂木町は町のアピールに余念がないというのに。魅力度ランキングの4年連続最下位(栃木県も下位常連だが)という結果も、納得せずにはいられなくなる。
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高峰の看板は茂木町推しのコピー
だが、ちょっと待て。キャッチコピーというのは、ダイレクトに魅力を言葉にすればいいというものではない。ちょっと遠まわしな表現をすることで、読み手に考えさせ、「ああ、なるほど!」と思わせることで、よりいっそうの効果が期待できるものだ。時にはコミカルに、時にはポエムのように。相手の心理に訴えかける。
その点を踏まえて、仏頂山の看板内容を見直すと、魅力を存分に伝えていることに気が付く。「緑と風と光が織りなすハーモニー」「自然のキャンバス」……ポエムのような言葉選びのセンスに、筆者は心動かされた。
だが……。
実際には、単独登山ですれ違った登山者と挨拶を交わした程度のふれあいで、リズミカルに歩こうにも足はすでに棒のよう。エンジョイウォークをしたくとも、階段ばかりでそれどころではない。
キャッチコピーに心は動かされたが、身体まで動かされることはなかった。