今でも「軽さは善」か、「今さら世界最軽量」なのか vol.2 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

今でも「軽さは善」か、「今さら世界最軽量」なのか vol.2

オピニオン インプレ

今でも「軽さは善」か、「今さら世界最軽量」なのか vol.2
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あらゆる状況で全てが上手くいくようなセッティング
「整いすぎた走行感」は長所にも短所にもなる
限定された状況でしか光らないような単細胞フレームではないが、そのぶんドグマや695やタイムなどに比べて個性は薄く、ドカンと蹴り上げるフレームを好む人、ゾクゾクするような切れ味を求める人にとっては物足りないかもしれない。その剛性感は 「よく整えられている」 という印象。よって、複数台のバイクを所有しており、個性を求めてさらに買い足すような人には向いていないか。EVOに落とし穴があるとすればここだろう。
ただ、性能そのものには欠点が全くない。加速よく軽快でスポーティーでクルクルとよく曲がりよく止まる。方向性はマドンに似ている。最新のカーボンフレームそのもの。ミズスマシのように、非常に軽やかに走るのである。
ただ、Qファクターが狭い (実測142mm) PF30とホログラムクランク、コンパクトドライブの組み合わせは、フロントの変速性能を大幅に低下させてしまっている。チェーンをインナーにかけたままリアをシフトアップしていくと、ある段からチェーンがアウター内側に接触し始め、勝手にアウターへかかりたがる症状が出てしまうのである。チェーンラインの影響だろう。スペーサーを入れてチェーンラインを調整するなどのファインチューンを行えばマシにはなるのだろうが、ユーザーにそこまでさせるようでは、メーカー系最新鋭ロードバイクの完成車として不完全である。これは決して褒められたものではない。
アンダー700gがこれほど下れるとは、今まで誰も想像しなかった
しかし、「そんな些細なことはどうでもいい」 と思わせてくれるのがヒルクライム性能である。どんなに粗探しをしても文句が付けられない。軽量化が直接的に登坂性能を向上させていることもあるが、ダンシングにおいて前作の欠点であった剛性バランスがキレイに解消されていることが大きい。初期スーパーシックスとは完全に別物である。ダンシングのスムーズさと登坂におけるトラクションのかかりは、現代の高性能フレームの中にあってもトップレベルだといっていい。
なにより驚いたのは下りだ。「軽量フレームにしては…」 ではなく、全ロードバイクの中でピカイチといっていいほどの下り性能を持っている。路面にピタリと吸い付いたまま、複合コーナーをヒラリヒラリとクリアし、ストレートでペダルを回すとスコーンとスピードが上がる。スピードはピカイチだが、全く怖くない。スタビリティはルック・695に匹敵するかもしれない。風切音の大きさでスピードの高さにふと気付く、という完璧な安定感である。
実重量の軽さと上手く仕上げられた剛性感から登坂性能の高さはある程度予測していたが、下りがこんなにいいとは思わなかった。冷静に考えると、これは驚くべきことである。軽量フレームにとって、かかる負荷が高くなるダウンヒルは苦手なはず。アンダー700gのフレームがこれほどまでに下れるとは、EVO誕生以前には誰も想像し得なかった。大垂水峠から相模湖への下りで、スーパーシックスEVOの真の実力に少しだけ触れることができた気がした。
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「アルミのキャノンデール」とはもう呼べない
“695g”の秘密は製造技術にあり?
下りきったところで、このEVOで採用されている (とアナウンスされている) 技術トピックだけではこの完成度と軽さの見事な両立を説明しきれない、と思った。繊維や樹脂に飛躍的な進歩があったわけではあるまい。細くなったとはいえ、フレーム形状も一般的である。それでいて、前作と同等の剛性を維持しながら一気に2割以上もの軽量化を果たしたのである (900g→695g)。何か秘密がありそうである。
最近、取材でフレームのカットサンプルを目にすることが多いのだが、カーボンフレームの内部には応力を担っていない 「無駄な素材」 が実に多いことがよく分かる。バルーンの圧力不足により樹脂が溜まってしまい繊維が回り込んでいない場所。バルーンとバルーンの間で繊維がうねり折り重なってしまっている場所。逆さまにすると樹脂の塊やバルーンのカスがゴロゴロと出てくる最新軽量モデル。成型精度に問題があるものも多い。とあるカーボン工場の人間に言わせると、「フレームの左右でパイプ厚が数mm違うものもある」 そうである。「何十万も出して買ったオーナーには、とてもじゃないけど見せられません」。
このような製造方法では、図面でいくら無駄のないフレームを設計しても、設計理論上の軽さは出ない。カーボンフレームとは、設計技術に生産技術が追いついていない工業製品だと言えるのかもしれない。
このスーパーシックスEVOでは、製造方法や製造クオリティを見直すことで、そこの無駄をそぎ落としてきたのではないか。強度や剛性に寄与していない部分を排除しても、強度や剛性は低下しない。そんな “革新的な技術に比べると地味だが、しかし確実に効く方法” で、この剛性、この安定感、そして “695g” を同居させたのではないか。それなら説明がつく。
実際にヘッドチューブからフレームの内部を覗いてみると、カーボンフレームにありがちなシワやバリなどがほとんど見られず、内壁面が高精度に平滑だ。トップ&ダウンチューブとの接合部もバリが非常に少ない。これなら個体差も小さいだろう。筆者が所有する某メーカーのカーボンフレームと比べてみると、唖然とするほどの差がある。
それが意味するものは何か。新しい製造方法の採用か。もしくはEVOのためだけに別の製造ラインを起こしたのか。他モデルとは違う工場で製造を行っていても不思議ではないだろう。「これほどまでの性能を完全保証する695g」 を安定生産するには、生産段階でそういうレベルの変更が求められた、と考えるのが自然ではないか。従来とは異なるレベルの製造クオリティを得るには、従来とは異なるレベルの努力と投資が必要である。
もちろん、本当のところはメーカーに聞いても教えてもらえないだろうし、公表してライバルに手の内を明かす必要などない。そもそもこれは筆者の邪推でしかないので、真に受けないでほしい。しかしもし事実だとすると、このスーパーシックスEVOはキャノンデール社にとって相当に気合の入ったニューモデルだということになる。
新世代の第二世代
軽量化によって性能と商品力を上げるという方法論はそれこそ何十年も前から見られるものだが、ここまでレベルの高い剛性感、安定感、扱いやすさ、ダウンヒル性能等々を695gのフレームに封じ込めることに成功したのは、(少なくとも筆者が乗車してきたバイクの中では) このEVOが初である。EVOの出現はライバルメーカーにとっても事件だったに違いない。「この重量とこの価格で、ここまでできます」 と証明されてしまったのだ。2008年に全てを一新したマドンが発売されたときは、おそらく多くのライバルメーカーが6.9を買って走って壊して隅々まで調べ上げたのだろうが、現在、各メーカーが必死になって切り刻んで分析しているのは、このスーパーシックスEVOだろう。マドンは 「圧倒的に新しい走り」 を世に示した新世代ロードフレームだったが、スーパーシックスEVOは走りの洗練度を保ったまま軽量性のレベルを一気に引き上げてしまった。「新世代の第二世代」 とでも言うべきモデルなのである。
乗って初めて695gという数字に素直に驚くことができるし、そんな数字だけで語るべきフレームではないことも分かる。キャノンデールというブランドが 「フルアルミの…」 という修飾付きで語られることは、もう二度とないだろう。
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