ホームの埼玉スタジアムに柏レイソルを迎えた、9日のセカンドステージ第2節。レッズが1点をリードして迎えた後半5分に、興梠とMF李忠成のあうんの呼吸から芸術的なゴールが生まれた。
左サイドを攻め上がってきたMF宇賀神友弥が敵陣のバイタルエリアに生じたスペースへパスを送る。逆サイドからフリーで侵入してきたのは興梠。しかし、ここで計算違いが生じる。
「自分の体勢が悪くて、しかもボールがちょっとずれたので」
ほんのわずかな距離だったが、宇賀神からのパスは興梠が目指していたゴールとは反対側の方向へずれる。このままではチャンスを逃す、と思った興梠はとっさに周囲の状況を確認した。
「背後にチュン(李忠成)がいるのが見えたので、ヒールでチュンへ落として、再び自分が(リターンパスを)もらおうかなと思ったんです。実際にチュンからボールが出てきたんですけど」
体勢を崩しかけながらも、興梠は左足を後方へ必死に伸ばす。青写真通りにボールをかかとにあてて李忠成へわたすと、ペナルティーエリア内へスルスルと移動していく。
ここで再び計算違いが生じる。李忠成がトラップから、左足で丁寧なパスを送った直後だった。興梠はこのとき、相手ゴールに背を向けながらボールを受ける準備を整えていた。
「自分のトラップが、足元にボールが入りすぎてしまって。どうしようかと思ったときに、チュンが走り出したのが見えたので。ただ、自分の体勢がすごく悪く、ちょっとジャンプしながら体勢を整えて、チュンがあがってくるのを待ったという感じですね」
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興梠慎三 参考画像
ボールこそ自分の支配下に収めたものの、背後にはレイソルのセンターバック中谷進之介の気配が近づいてきていた。もう一人のセンターバック、中山雄太も興梠の次なる動きに神経を尖らせている。
これでは体を反転させて、自らシュートにもち込むことはできない。周囲の状況を的確に把握しながら、興梠の思考回路はベストの選択肢を弾き出していた。
「あの場面ではチュンしか見ていなかった。ちょっと難しいパスになっちゃいましたけど、多分あそこしかコースがなかった。それをチュンが冷静に、見事に決めてくれました」
興梠へパスを送った直後に、李忠成は中山の右側に生じたスペースへ走り込んできていた。タイミングを見計らっていた興梠は、体をひねりながら半ば強引に右足を振り抜いた。
浮き球のスルーパスが李忠成のもとへ通る。もっとも、ゴール前の混戦地帯でトラップしている時間も余裕もない。李忠成は体を急停止させながらとっさに左足を伸ばし、ボールをコンタクトさせた。
「(興梠)慎三とのコンビネーションはすごくいいので、パスがくると信じていた。どんなボールがきても対応したかったので、自分はああいうシュートを選択しました」
体勢を崩しながら放った李忠成のシュートは山なりの軌跡を描き、U-23日本代表に名前を連ねるGK中村航輔の頭上をゆっくりと超えていく。懸命にジャンプして、右手を伸ばすもわずかに届かない。
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