【THE ATHLETE】本塁クロスプレーの新ルール、早くもプロ野球キャンプで混乱 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【THE ATHLETE】本塁クロスプレーの新ルール、早くもプロ野球キャンプで混乱

オピニオン コラム
捕手 イメージ
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阪神タイガースの春季キャンプは2月9日も沖縄・宜野座で行われた。この日は今キャンプ3度目のシート打撃を行ったが、そこで今シーズンから導入される新ルールをめぐり混乱が起こった。

■アウトを確信…しかしセーフ

問題はランナー二、三塁の場面で起きた。西岡剛の打球は遊撃手の鳥谷敬のもとへ。鳥谷は軽快にさばいて本塁へ送球したが、わずかに三塁側へ逸れた。捕手の小宮山慎二が捕球して三塁ランナーにタッチ。タイミングは完全にアウトだった。ところが、栄村孝康球審の判定はセーフ。

すぐさま矢野燿大作戦兼バッテリーコーチが飛び出した。まるでシーズン中のような勢いで栄村球審のもとへ駆け寄り、判定について確認を求めた。判断が分かれたのは『コリジョン(衝突)ルール』の適用についてだ。

今シーズンから日本でも、捕手はホームベースの三塁側走路を塞いではいけないことになっている。必ずベースを開けて待たなければならない。それが今回のプレーでは、三塁側に逸れたボールを捕るため、小宮山の左足が本塁上へかかっていたのだ。

コリジョンルールでも捕球のためなど、仕方なく足がベースにかかってしまうプレーは、自然な動作の範囲内として違反にならない。だが、何をもって故意と判断するかは迷うところ。

矢野コーチは「まだ審判も迷っていると思う。今日は参考になるいいプレーが出た」と話した。

説明を受けた金本知憲監督は、「走者も迷うよね。返球がきたとこにぶつかってしまうと、タックルを取られかねない」と、新ルールでは捕手だけでなく走者も難しい判断を迫られるとしている。

このあとの練習では矢野コーチを中心に捕手陣が集まり、本塁クロスプレーの練習を重ねる姿があった。

■契機は2011年に起きた危険なプレー

アメリカでは一足早く本塁上のブロックが禁止になっている。きっかけは2011年5月26日、サンフランシスコ・ジャイアンツ対マイアミ・マーリンズ戦にある。

1死一、三塁の場面で打球は浅いライトフライ。勝ち越しを狙った三塁ランナーが本塁へ突入し、捕手のバスター・ポージーを体当たりで突き飛ばした。このプレーでポージーは左下腿の腓骨骨折と左足首靱帯断裂の重傷を負う。


一時は選手生命も危ぶまれたポージー。だが、野球ファンの多くはカズンズの体当たりについて、「問題ないプレー」だと考えていた。メジャーリーグOBからは、「野球の醍醐味のひとつじゃないか」という意見すらあった。

それでも次第に世論が形成され、メディアはこうしたプレーを「蛮勇」と報じるようになった。

■新ルールは誰を守るのか

捕手の大ケガにより導入された新ルールと書くと、これは守備側の選手を保護するものだなと感じる人が多いだろう。だが本塁上のブロックを禁止にすることで、走者が守られる状況もある。

当時ジャイアンツでポージーの同僚だったコディ・ロスは、本塁上に滑り込んだプレーで捕手のヒザにブロックされ、足を大ケガした経験を語っている。確かにポージーの負傷は悲しいことだが、もし捕手が本塁上で待ち構えブロックしてくるなら、走者はケガ防止のためにも体当たりを選ばなければならない。それがロスの言い分だった。

ロスが言うようなプレーは日本でも2003年に見られた。福岡ダイエーホークス(現:福岡ソフトバンクホークス)の小久保裕紀が、本塁クロスプレーでヒザを挟まれ前十字靭帯断裂などの重傷を負い、シーズンを全休したのだ。

タックルだけ禁止にして、クロスプレーは「文化だから」「醍醐味だから」で残すと、走者にだけケガのリスクを負わせてしまいかねない。

■接触禁止で考えられる変化

新ルールの適用により、今までならアウトになっていたタイミングでも、セーフになるプレーが増えるだろう。走路妨害を取られないため、今キャンプでは捕手の多くがホームの一塁側フェアグラウンドに立っている。そこから本塁へタッチにいくと自然、追いタッチの形になり審判の印象は悪い。タイミング的にも走者の動きに対して遅れてしまう。

試合への影響もある。同点や1点差で競っている試合、終盤に「タイミングはアウトだったが、走路を塞いだためセーフ」という形で点が入ったら、ベンチは釈然としないし、ファンも「何だそれ」と感じるはずだ。

慣れない新ルールの導入により、しばらくは首脳陣・選手・審判、そしてファンも混乱することが予想される。
《岩藤健》

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