【THE REAL】美しき敗者…雑草軍団・愛媛FCを変えた青年監督、キャプテン河原和寿が語る熱く固い絆 2ページ目 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【THE REAL】美しき敗者…雑草軍団・愛媛FCを変えた青年監督、キャプテン河原和寿が語る熱く固い絆

オピニオン コラム
河原和寿選手
  • 河原和寿選手
  • 木山隆之監督

■逆風

もっとも、観客数は約2万1400人の収容人員に対して2489人にとどまった。雨が舞うあいにくの空模様となったことだけが、おそらく理由ではない。さかのぼること1月に、決算を黒字化するために2012、2013年度にわたって不適切な会計処理を行っていた不祥事が判明していた。

調査の結果、組織的な関与はなかったとして、Jリーグからはけん責処分と制裁金300万円が科されただけで済んだ。しかし、騒動の責任を取って亀井文雄社長が辞任するなど、イメージの悪さが残った。

新社長に就任したのは、愛媛県サッカー協会の豊島吉博会長。日本サッカー協会の常務理事や事務局長を歴任した新社長が就任会見で発した言葉は、その後の愛媛の歩みそのものだった。

「逆風のなかでのスタート。信頼を取り戻すため、愚直に一歩ずつ前へ進みたい」

栃木から戦力外を通告されたのが2012年オフ。プロとしての第一歩を踏み出したアルビレックス新潟から数えて4チーム目となる愛媛でプレーしながら、河原自身も平均観客数が長く3000人台で推移してきた理由を痛感していた。

「それは僕たちが結果を出して来なかったから。この状況を打開するのも僕たちの結果しかないと常に口にしながら、日々の練習や試合を重ねてきました」

■反骨

大分トリニータとの第6節から、クラブタイ記録となる4連勝をマーク。そのなかには、ジェフ千葉からあげた公式戦初勝利も含まれていた。すべてが完封。3つが1対0だった事実が、粘り強さを身につけつつあったことを物語る。

毎年のように成績を落としてきた夏場に入ると、さらにギアがあがる。コンサドーレ札幌との第26節を皮切りに、J1に在籍した経験をもつチーム相手に5連勝。クラブ記録をあっさりと塗り替えるとともに、一気に昇格争いに割り込んできた。

J1で目立った結果を残している選手はいない。多くは河原のように戦力外となった中堅か、あるいは武者修行のために期限付き移籍で加入した若手。何よりも木山監督自身も、反骨精神の持ち主だった。

ジェフを率いた2012年シーズン。木山監督は開幕前にこんな理想を掲げていた。

「アーセナルとバルセロナの両方を足して、2で割ったサッカーを目指す」

理想とは対照的にリーグ戦では5位に終わり、J1への自動昇格を逃した。心機一転、J1昇格プレーオフの準決勝を勝ち抜いた直後に、一部スポーツ紙に後任監督候補の名前が躍る屈辱を味わわされた。

当時の主力選手がフロントの情報管理能力の甘さに激怒したが、残念ながら後の祭りだった。アディショナルタイムを含めて残り4分強を守り通せばJ1に昇格できた、トリニータとの決勝でジェフは敗れた。

一敗地にまみれた木山氏はヴィッセル神戸のコーチに就任。自らを見つめ直しながら、捲土重来を期すチャンスが訪れるのを待った。そして、2014年シーズンは19位に沈んだ愛媛からオファーが届いた。

J1の舞台で戦いたい――大きな夢をかなえようと愚直に、ひたむきに戦い続け、結果も残しつつあった雑草軍団の姿は、時間の経過とともに地域の人々を魅了していく。河原は万感の思いを募らせていた。

「愛媛県に根差した野球愛というものが少しずつサッカーへ、周囲の状況が少しずつ変わっていくのを肌で感じることができた。野球好きの方がサッカーをいきなり好きになるのは難しいことですけど、興味をもってもらうことはできる。そのきっかけを、僕たちからアクションを起こすことで作ることができた。常にサッカーがテレビに映し出される状況が生まれたことが、僕にはすごく嬉しかった。一歩踏み込んだところまで進むことができたと思っています」

11月23日にホームで行われたJ2最終節。セレッソ大阪の結果次第では、勝てば4位でJ1昇格プレーオフに臨める一戦で、愛媛は前シーズンをJ1で戦った徳島ヴォルティスを3対0で一蹴した。

セレッソも勝ったために順位は5位と変わらなかったが、それでも過去最高位を大きく更新した。詰めかけた9158人の観客数は今シーズン最多。JFL時代を含めた歴代でも6位にランクされた声の塊と熱意が、J1切符獲得を強烈にプッシュする。

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《藤江直人》

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