【THE REAL】香川真司の現在地…ボルシア・ドルトムントでの復活の先に日本代表の大一番を見すえて | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【THE REAL】香川真司の現在地…ボルシア・ドルトムントでの復活の先に日本代表の大一番を見すえて

オピニオン コラム
香川真司
  • 香川真司
  • 浦和レッズ対ドルトムント(2017年7月15日)
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  • 浦和レッズ対ドルトムント(2017年7月15日)
  • エムレ・モル
■ベンチで浦和レッズと戦い続けた90分間

埼玉スタジアムのベンチで戦況を見つめながら、頭のなかで浦和レッズの選手たちと対峙していた。ボルシア・ドルトムントの一員として今シーズンの初戦を終えた香川真司は、短い言葉に思いを凝縮させた。

「自分にあてはめながら、試合を見ていました」

昨シーズンのブンデスリーガで3位に入った強豪ドルトムントを迎えて、15日に開催されたJリーグワールドチャレンジ2017。前日に来日したチームに合流した香川は、90分間をベンチで見届けている。

日本代表の一員として臨んだ、6月7日のシリア代表との国際親善試合で左肩脱臼の大けがを負った。そのまま戦列を離れて日本国内で治療に務めてきたが、完治するまでにはもう少し時間がかかる。

「もちろん今日も先発したかったですけど、けがの状況が状況なので仕方がないし、そこは切り替えているので。リーグ戦の開幕を含めて、しっかりとそこに照準を合わせながら調整していきたい」

浦和レッズ戦
(c) Getty Images

練習でボールを蹴れなくても、思考回路のトレーニングはできる。2シーズンにわたって指揮を執ってきたトーマス・トゥヘル前監督が退任したドルトムントは、このオフに大きく体制が変わった。

新たに招聘されたのは、アヤックスを昨シーズンのUEFAヨーロッパリーグ準優勝に導いたピーター・ボス監督。若手を積極的に登用する手腕が高く評価されて、契約を2年残しながら引き抜かれた。

1990年代にジェフユナイテッド市原(当時)でプレーし、1999シーズン限りで日本の地で現役引退。指導者の道を歩んできた53歳のボス監督は、レッズ戦で2つのシステムを試している。

中盤を逆三角形型にした「4‐3‐3」で前半を0‐1とリードされて折り返すと、後半からは「3‐4‐2‐1」にガラリと変更。一挙に3ゴールを奪って、3‐2で逆転勝利をあげた。

■2枠のインサイドハーフを争うライバルたち

トップ下のポジションを置かない前半と、ワントップの背後に2人のシャドーを置いた後半。香川の左肩が癒え、コンディションも戻ってきたとき、2つのシステムではどこに組み込まれるのか。

おそらくは「4‐3‐3」ではアンカーの前に左右対で配置されるインサイドハーフの、一転して「3‐4‐2‐1」ではダブルシャドーの一角となる。香川が注視したポジションも、まさにその2つだった。

「前半は相手も引いていたし、スペースがないなかでちょっと渋滞していた。その意味ではボールの出し入れとか、前の選手が降りてくる必要性があった。どんなタイミングでもいいので中に一度入れないと、サイドもフリーになってこないので。自分としては、そういうプレーを意識しながらやっていきたい。

後半はフォーメーションが変わりましたけど、僕自身、いろいろなポジションで出られるように準備をしているし、ポジションが変われば求められるものも変わってくる。一番は自分自身がどのようなプレーをできるのかということを考えながら、やっていければいいんじゃないかと思う」

レッズ戦では、インサイドハーフを26歳のセバスティアン・ロデと30歳のゴンサロ・カストロが務めた。ともにハードワークを身上とするドイツ人で、ボス監督もまず守備を安定させたかったのだろう。

21歳にしてドルトムントの心臓を担い、ドイツ代表にも名前を連ねるユリアン・ヴァイグルが故障から復帰すれば主戦場のアンカーに座り、レッズ戦でアンカーを務めたトルコ代表のヌリ・シャヒンが一列上がる。

そこへ代謝異常による長期離脱を克服し、レッズ戦の後半17分からピッチに立った2014年のワールドカップ・ブラジル大会制覇の立役者、25歳のマリオ・ゲッツェも加わる。2枠を争うライバルは多い。

マリオ・ゲッツェ(中央)
(c) Getty Images

■才能ある若手たちがしのぎを削るダブルシャドー

ダブルシャドーをめぐる争いは、さらに熾烈を極めている。正確に言えば、レッズ戦を境に一気に激戦区と化した。埼玉スタジアムのピッチに強烈な残像を刻んだのは、まもなく20歳になるエムレ・モルだ。

後半から投入された身長168センチの小柄なドリブラーは、変幻自在かつ意外性に富んだプレーを披露。ともに日本代表DF槙野智章を翻弄する形で同点、一時は逆転となる2ゴールを3分間で奪ってみせた。

レフティーであることから「トルコのメッシ」なる異名をつけられている、加入2年目のモルが与えた衝撃は、同じくドリブルを武器とするレッズの22歳、MF関根貴大が残した言葉からも伝わってくる。

「チームのコンセプトがしっかりしているなかで、個々の能力もすごく高かった。特にモル選手はとんでもなく技術が高くて、何を考えているのかわからないほど豊富なアイデアも出していた。本当に嫌な相手でしたけど、ああいうドリブラーは見ていて気持ちがいいし、ファンを魅了できると思う」

デンマークのノアシェランから加入した昨シーズンは12試合に出場し、わずか1ゴールに終わった。よりチームに順応した今シーズン。ブレークの予感を漂わせるライバルの姿に、香川は逆に言葉を弾ませる。

「(モルは)もっているモノが素晴らしいし、それをしっかりとピッチで証明したことも素晴らしい。若い選手が本当に数多くいるので、彼らを常に生かすという部分でも、僕が経験のある立場としてプレーしていかないといけない。彼らとの融合がしっかりとできれば、今年も上手く戦っていけると思っているので」

トルコのメッシの異名をもつエムレ・モル
(c) Getty Images

モルだけではない。先発に名前を連ねながら試合開始直前に体調不良を訴え、レッズ戦を欠場した20歳の新星、フランス代表のウスマン・デンベレもいる。多士済々なメンバーは、ボス監督をも悩ますはずだ。

■6番目に長い在籍期間に導かれるリーダーシップ

試合は後半終了間際、アンドレ・シュールレが角度のない場所から豪快な決勝弾を見舞った。ワールドカップ優勝メンバーである26歳のシュールレは、デンベレに代わって急きょ先発。前半を3トップの左で、後半をダブルシャドーの一角でプレーしながらフル出場した。

ここに創造力とテクニックを兼ね備える、ドイツ代表のマルコ・ロイスが虎視眈々と故障からの復帰を狙う。一筋縄ではいかない先発メンバー争いにも、28歳の香川に焦りはない。むしろ泰然自若としている。

「自分が中心になってやっていかないといけないので。そのためにも上手く若手とのバランスを取りながら、自分というものをピッチで出していければ」

再びピッチで躍動する日を見すえて
(c) Getty Images

2010年7月にセレッソ大阪から加入。2年間で魅せた衝撃的な活躍が評価され、プレミアリーグのマンチェスター・ユナイテッドへ移籍。残念ながら輝きを放てず、2014‐15シーズンの開幕直後に復帰した。

通算で6シーズン目を迎えた在籍期間は、2002‐03シーズンからプレーする36歳の守護神ロマン・ワイデンフェラーから数えて、ロイスと並んでチーム内で6番目に長い存在となった。

レッズ戦の前日には、来夏で満了となる契約を2020年6月末まで延長したことが発表された。必要とされている状況が、チームをけん引していく自覚を無意識のうちにうながしている。

「ドルトムントでやらなければいけないことのプラスアルファとして、代表は常に意識している。両方ともいい状態で迎えられるように、上手く調整していきたい」

照準を合わせるのは来月19日に待つ、ヴォルフスブルクとのブンデスリーガ開幕戦。直後には勝てばワールドカップ・ロシア大会出場が決まる大一番、オーストラリア代表とのアジア最終予選が待つ。焦らず、かつ確実に。リーダーシップをも身にまといながら、香川が暑い夏を駆け抜けていく。
《藤江直人》

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