【THE REAL】日本代表・大迫勇也が感情を露わにした理由…新しい自分を貪欲に表現していくために | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【THE REAL】日本代表・大迫勇也が感情を露わにした理由…新しい自分を貪欲に表現していくために

オピニオン コラム
大迫勇也 参考画像(2017年6月13日)
  • 大迫勇也 参考画像(2017年6月13日)
  • 大迫勇也 参考画像(2017年6月13日)
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  • 大迫勇也 参考画像(2017年3月23日)
  • 大迫勇也 参考画像(2017年6月7日)
  • 大迫勇也 参考画像
■テヘランの地で喜びを爆発させた理由

両拳をテヘランの空へ突き上げた次の瞬間、力強いガッツポーズを作った右手を大きく振り回した。感情をあまり表情に出さなかったはずの男が、何度も、何度も雄叫びをあげている。

イラク代表と対峙した13日のワールドカップ・アジア最終予選第8戦。政情不安が続くイラクではなく、中立地イランの首都にあるパス・スタジアムで行われた一戦を、FW大迫勇也(ケルン)が動かした。

前半のキックオフからわずか8分。日本代表が獲得した右コーナーキックを、5試合ぶりに先発へ復帰したFW本田圭佑(ACミラン)が蹴る。カーブ回転がかかったボールが、弧を描きながら急降下してくる。

ターゲットはニアサイド。2人のマーク役に挟まれていた大迫はタイミングを見計らい、ジャンプ一番、頭のてっぺんあたりでボールをヒット。空中で体を捻りながら、後方へと流し込んだ。

わずかに軌道を変えられたボールに、イラク代表のゴールキーパーは反応できない。反対側のネットを揺らした直後から喜びを爆発させた大迫は、瞬く間に何人もの仲間たちにもみくちゃにされた。

先制点に歓喜する大迫勇也
(c) Getty Images

なぜこんなにも感情を露わにしたのか。引き分け以上で6大会連続のワールドカップ出場に王手をかけられる、ハリルジャパンにとって大事な一戦における先制点を叩き込んだこともあるだろう。

誰よりも大迫自身が、ゴールに飢えていた。約1年5ヶ月ぶりにハリルジャパンに復帰した昨年11月のオマーン代表との国際親善試合で2ゴールを決めて以来、出場した3試合で不発が続いていた。

3月シリーズでは、23歳のFW久保裕也(ヘント)が2得点3アシストの大暴れを演じている。ストライカーはゴールを決めてこそなんぼ。大迫は日本を発つ前に、偽らざる思いを口にしていた。

「自分のゴールとチームの勝利? フォワードはどちらも欲しいでしょう」

■黒子に徹するプレーを要求される日本代表

もっとも、同じフォワードでも中央に陣取る大迫はまず求められるプレーがある。ポストプレーヤーとしてボールを収め、相手のプレッシャーに耐えながらキープして、周囲の味方のために時間を作る。

日本代表に復帰した昨年11月。バヒド・ハリルホジッチ監督は、所属するケルンでのパフォーマンスを評価したうえで、大迫にこんな注文を出している。

「ポジションの移動については、頭を切り替えてくれ」

ケルンでは186センチ、73キロのサイズを誇り、昨シーズンに25ゴールをあげたアントニー・モデストと絶妙のコンビを形成。その周囲を衛星的に動き回る、セカンドストライカーとして居場所を築いた。

ケルンではセカンドストライカーとして躍動
(c) Getty Images

ブンデスリーガで対戦しているハリルジャパンのキャプテン、MF長谷部誠(アイントラハト・フランクフルト)は、モデストよりも神出鬼没の動きを見せる大迫のほうが嫌だったと明かしたことがある。

「最終ラインの裏にも抜けてくるし、引いてボールも受けるし、サイドにも流れてチャンスを作られた。日本代表でサコ(大迫)に求められる役割がワントップならば、その点ではケルンとはちょっと違う部分があるけど。いずれにしてもサコが入ることで、また新しい形が生まれると思う」

衛星的に動き回るのではなく、前線の中央でまずはターゲットマンを務める。他の選手には真似のできないボールキープ術と体の強さを駆使して、左右のウイングを務める選手たちの黒子に徹する。

実際、試合を重ねるごとに、左ウイングの原口元気(ヘルタ・ベルリン)、右の久保とのコンビネーションに大迫自身も大きな手応えを感じていた。

「2人とも縦にものすごく勢いがある選手ですから。僕が時間を作ることで2人のよさを引き出せると思うし、そこに中盤の選手たちが絡んでくれば、また新しい攻撃が生まれてくるはずなので」

■頭をもたげてきたストライカーの本能

たとえば、敵地で快勝した3月のUAE(アラブ首長国連邦)代表とのワールドカップ・アジア最終予選第6戦。相手の戦意を完全に萎えさせた後半6分の2点目は、大迫のポストプレーを抜きには語れない。

後方からDF吉田麻也(サウサンプトン)が蹴ったロングボール。相手と空中で競り合いながら、大迫は右サイドにいた久保へ頭で正確無比なパスを通し、久保のクロスをMF今野泰幸(ガンバ大阪)が決めた。

ポストプレーでの貢献
(c) Getty Images

ボールキープ術にしても、ため息が出るほど上手い。絶対にボールを失わないという厚い信頼関係がすでに構築されているから、味方の選手たちも安心してボールをもつ大迫を追い越していける。

「このポジション(ワントップ)に、素晴らしい候補が見つかった。彼はチームに多くのことをもたらしてくれる感じがする」

オマーン戦を終えた段階で、ハリルホジッチ監督は大迫に及第点を与えている。大迫自身も確固たる居場所を築けたことは嬉しかった。一方でストライカーの本能とも呼ぶべき思いが、頭をもたげてくる。

「ボールを収めることはできているので、そこにプラスしていかないと。僕の場合はゴール前ですね。ゴール前に入っていく回数も、ゴール前で受ける回数ももっと増やさないといけない。ゴール前へ入っていくことで何かを起こせると思うし、相手の脅威にもなるはずなので」

ドイツ移籍後では最多となる7ゴールをあげた昨シーズンのケルンでも、ゴール前に顔を出せと強く言い聞かせた。その結果としての7ゴールに物足りなさを覚え、挑戦の続きを日本代表での戦いに求めた。

「ゴール前でもっと迫力を出すことが、僕自身の課題だとずっと思っているので。普通にプレーしていたら出せないものだし、だからこそもっと、もっと意識しながら自然と迫力を出せるようにしなきゃいけない」

■酒井宏樹に対して鬼気迫る表情を見せた理由

果たして、思い描いた場面はイラク戦の後半20分に現実のものとなる。右サイドでボールをもったDF酒井宏樹(オリンピック・マルセイユ)が、本田とのワンツーから一気に縦へ抜け出す。

ゴール中央には相手のマークを振り切った大迫が、完璧なタイミングで走り込んでいた。ワンタッチで中央へ折り返せば確実にゴールが生まれた状況で、酒井はなぜかボールを整えてしまう。

しかもタッチが乱れ、その間に相手に間合いを詰められる。必死に縦へボールを運び、グランダーのクロスを送ったが、残念ながら大迫に合うタイミングを数秒ほど逸していた。

ゴールへの飽くなき執念
(c) Getty Images

大迫はそれでも急ブレーキをかけてターン。こぼれ球に左足を合わせたが、シュートは無情にも右ポストを叩く。痛恨のミスだと自覚していたのか。酒井はゴールラインの外で突っ伏していた。

ピッチで仰向けになり、両手で顔を覆った大迫はおもむろに起き上がり、酒井へ鬼気迫る表情を向ける。ワンタッチプレーを選択しなかったことへ、怒声を浴びせながら叱責した。

ゴールを決めて喜びを爆発させる大迫も珍しければ、味方に対してここまで激怒する大迫も珍しい。ゴールしていれば雌雄もほぼ決した。しかし、命拾いしたイラクに追いつかれ、無念のドローで終わった。

「まずは勝つこと。チームのピースになれるように、やっていかないと」

与えられた役割を完遂しつつ、新たな自分も出す。対極的な二兎を貪欲に追い求め、実際にゴールという果実を手に入れかけただけに、画竜点睛を欠いたことが悔しかった。勝ち点3を逃したことが哀しかった。

次節は8月31日。ホームでオーストラリア代表に勝てば、ロシア行きが決まる。喜怒哀楽のうち、イラク戦で出せなかった「楽」を表現するために。主軸の自覚を漂わせる27歳は妥協することなく自らに、そして周囲に厳しさを求めていく。
《藤江直人》

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