【THE REAL】スピードスター・浅野拓磨が抱く捲土重来…悔し涙をリオ五輪で笑顔に変えるために 2ページ目 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【THE REAL】スピードスター・浅野拓磨が抱く捲土重来…悔し涙をリオ五輪で笑顔に変えるために

オピニオン コラム
浅野拓磨 参考画像(2016年5月23日)
  • 浅野拓磨 参考画像(2016年5月23日)
  • 浅野拓磨 参考画像(2015年12月20日)
  • 浅野拓磨 参考画像(2016年6月3日)
  • 浅野拓磨 参考画像(2016年6月7日)
  • 浅野拓磨 参考画像(2016年5月21日)
  • 浅野拓磨 参考画像(2016年6月3日)
■情けなさに泣いたボスニア・ヘルツェゴビナ戦

忸怩たる思いを吹き飛ばすきっかけを得てから4日後。ハリルホジッチ監督の母国、ボスニア・ヘルツェゴビナ代表と対峙した決勝戦で、浅野は先発の座をゲットする。

そして、1-2とリードを許して後半アディショナルタイム。浅野は地獄を味わわされる。MF遠藤航(浦和レッズ)の縦パスを、MF清武弘嗣(ハノーファー)が触ると見せかけてスルーした直後だった。

虚を突かれた相手守備陣の足が、一瞬だけ止まる。右サイドに生じていたスペースへオフサイドぎりぎりの飛び出し、パスに追いついた浅野が完全にフリーとなる。スタジアムにいた誰もが決定機の到来に腰を浮かし、同点ゴールが生まれる瞬間を思い描いた直後だった。浅野はシュートではなく、ゴール前へのパスを選択した。


ボスニア・ヘルツェゴビナ戦

確かに中央には小林が、ファーサイドにはFW金崎夢生(鹿島アントラーズ)が詰めていた。しかし、ここで同点とされてなるものかと、相手も必死の形相で戻ってきている。

果たして、小林の足元を狙った丁寧な、言い換えれば緩いパスは相手が伸ばした足に当てられる。こぼれ球に清武が詰めたものの、右足から放たれたシュートは無情にもバーのうえを越えていった。

小林が浅野を見ながらぼう然とその場に立ち尽くし、金崎は両手をあげて「なぜ?」のポーズを作る。ゴール中央へ詰めてきていた遠藤は、頭を抱えながら悔しそうにボランチの位置へ戻った。

そのとき、ハリルホジッチ監督は信じられないという表情を浮かべていた。市立吹田サッカースタジアムのほぼすべての視線が、「なぜそこでシュートを打たないのか」という想いとともに浅野へ向けられていた。

■シュートを打たなければ何も始まらない

シュートを放つには、やや角度があった。後半42分にも同じような形で右サイドを抜け出してフリーになったが、強烈なシュートは相手GKに防がれてコーナーキックとなっていた。

浅野本人としては確実性を重視したはずだが、シュートを打たなければ何も始まらない。たとえ相手守備陣に止められたとしても、こぼれ球を小林や金崎、遠藤が押し込むこともできる。

実際、相手DFに対して日本の青いユニフォームは3人。ゴール前において数的優位に立っていたからこそ、浅野本人もパスを選択した判断が間違っていたと瞬時にわかったのだろう。

そのまま試合終了を迎え、表彰式が行われたピッチ。浅野はひと目をはばかることなく号泣した。シュートを打てなかったのは、ここ一番の自信がなかったから。自らへの怒り、情けなさが涙腺を決壊させた。



五輪切符を獲得した1月のU-23アジア選手権を戦ったFW陣のうち、久保裕也(ヤングボーイズ)は4月下旬からケガで戦列を離れ、スイスから帰国した後は古巣の京都サンガで懸命なリハビリに努めている。

開幕前に左太ももの肉離れを起こした鈴木武蔵(アルビレックス新潟)は、11日の大宮アルディージャ戦でようやく今シーズン初出場を果たした。

こうした状況で浅野がメンタル的なスランプに陥れば、まったく異なるメンバーでリオデジャネイロを戦わざるをえない状況も生まれてしまう。

だからこそ、けがも完全に癒えた浅野は、奮起しなければいけないと感じている。自らに言い聞かせるかのように、以前にはこんな言葉も残していた。

「僕らがもっているものをすべて出し切ることで、FWではオーバーエイジを使わなくてもオリンピックで戦えると、監督に思われるようにしないと。僕はほかのことを考えている暇はない。自分のことだけをしっかりと考えて、オリンピックに行くメンバーに入り込めるように、自分にできることをそれこそ毎日100%でやっていくだけだと思っている。

ボールを奪ったあとの攻撃の速さも、もっとクオリティーをあげないといけない。パスの受け手としてその意識を高めないといけないし、パスの出し手とのコンビネーションの質も高めていかないといけない。オリンピックのようにレベルがあがると、そう簡単にはパスを通させてくれないし、そう簡単には最終ラインの裏へ抜け出させてくれないはずなので」



50m走で6秒を楽々と切る韋駄天の浅野は、タイプ的には手倉森監督の言う「収める人」ではない。求められるのは、圧倒的なスピードの差を生かしてゴールに絡むプレーとなるだろう。

ロングボールからのカウンター。あるいは、相手が疲れてくる終盤に出番が訪れるスーパーサブ。リオデジャネイロの舞台で求められるプレーは明確だが、いずれもシュートを放たなければ存在価値を問われてくる。

日本サッカー協会は6月中に予備登録を終えたいとしている。キリンカップで流した涙を完全復活への糧に変えるために、浅野は6月に3試合が予定されているリーグ戦でがむしゃらに走り回る。
《藤江直人》

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