【THE INSIDE】高校野球探訪(3)市立川越と桐生一の「価値ある練習試合」… 後半から1点を巡る攻防 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【THE INSIDE】高校野球探訪(3)市立川越と桐生一の「価値ある練習試合」… 後半から1点を巡る攻防

オピニオン コラム

試合後ネット裏の人たちに挨拶する市立川越ナイン
  • 試合後ネット裏の人たちに挨拶する市立川越ナイン
  • 市立川越・新井清司監督
  • 市立川越・メンディス君
  • ネット裏には近所の人も気軽に訪れる
  • 市立川越・小川君
  • 本塁打した市立川越・久保君
  • 本塁打も放った桐生一・内池君
  • 桐生一・内池君
6月に入り、高校野球の有力校は県外の強豪校を招いたり、遠征試合を組んだりする。質の高い練習試合が各地で見られるケースも多い。

埼玉の市立川越が6月最初の日曜日、全国制覇の実績もある群馬の桐生一を招いて行った試合も見応えのある試合だった。桐生一は今年の春もセンバツに出場している甲子園常連校だ。

市立川越は、川越商時代の1989(平成元)年に甲子園出場を果たしている。2014年の夏にも上條将樹投手(現法政大)などを擁して決勝に進出。春日部共栄に屈したものの、浦和学院や花咲徳栄など有力私立校の壁が厚いと言われている埼玉で、公立校として甲子園に最も近いと言われている存在でもある。

ほぼ専用で使用できるグラウンドに恵まれ、市立校だけに地域からも愛される学校となっている。グラウンド脇には気軽に出入りできる入口があり、高校野球ファンや近所の野球好きがふらりと訪れている。

■ご近所のファンも気軽に観戦する環境

目の肥えたファンたちは、桐生一のような全国的にも名の知られた学校が訪れるとなると、競うようにネット裏に集まってくる。こういう光景を見ると、地域に愛されてこその高校野球であり、高校野球は地場産業のひとつでもあることを改めて実感する。

市立川越の新井清司監督は、「学校によっては関係者以外はネット裏に入れないとか、練習試合を公開しないところもあるみたいだけど、うちはオールウェルカムだからね」と笑う。学校は住宅地にあり、グラウンドの横にも一般住宅がある。高く設定された防球ネットには苦笑する。

「ネットはかなり高くしてもらっている。それでもファウルボールが出ていくことはありますよ。そんな時は、すぐに菓子折り持って謝りに行くことにしているんですが、最近は逆に『そろそろ、甲子園へ行ってよ』なんて励まされることも多くてね」


新井清司監督

そんな地域住民の期待に応えたい。質の高いチームとの練習試合は、特に夏の大会を1カ月後に控えたこの時期は貴重になる。市立川越対桐生一の試合は6-5で市立川越が勝利した。



2回、桐生一が失策絡みで先制する。桐生一の先発、下手投げの青木君の低めをはうトレートとスライダーに手こずっていた市立川越打線。二巡目となった4回、2番・市原君がしっかりとらえて中前打すると、新井監督が「チームで最もセンスがある」と評価している中祖君の中越三塁打で同点に。

さらに内野ゴロでランナーが生還して逆転した後、6番・久保君が少し高めに浮いて珍しく失投となった青木君のストレートを叩き左越本塁打を放つ。市立川越が2点リードとなったが、その裏に桐生一はスクイズで1点差に迫る。さらに失策の走者を9番・齋藤馨君が右越三塁打で帰して再び桐生一がリード。

市立川越の先発メンディス君は、「力はあるが投げてみないとわからない」という面がある。好不調の波が激しいというが、それがイニングによっても表れるようで、この回はその悪い方が出てしまった。


市立川越のメンディス投手

桐生一は6回、センバツでもエースとして投げた左腕の内池君をマウンドに送る。市立川越はこの春に背番号「1」を背負っていた左腕の小川君が登板となった。市立川越は内池君を攻めて、一死から瀬山君、久保君、上原君の3連打などで同点とする。

■手に汗握る終盤へ

7回、8回に両校1点ずつ取り合って、同点のまま迎えた9回。練習試合とはいえこういう展開になってくると、終盤の1点の攻防のシミュレーションとしては絶好の機会となっていく。どちらも点を取りたい、与えたくないという気持ちが表れてきていた。見ごたえのある9回になった。

市立川越は先頭の9番・中山君が中前打すると、バントで進める。2番・市原君の強い打球は内野手の悪送球を招いて、ランナーは一、三塁に。ここで中祖君が中犠飛を放ってきっちり仕事をした。

その裏、3人でピシャリと抑えられたら小川君も「見事!」と言われるのだが、さすがに桐生一もしぶとい。1番からの好打順で追川君が勝負強く中前打で塁に出ると、柳谷君が送って一死二塁。高田君の打球は中越打となったが二走は帰れず、一死二、三塁となった。

4番・鏑木君は頭部に死球を受け、試合は一時中断。一死満塁で臨時代走を送って再開となった。桐生一は一打同点、逆転の場面である。市立川越としては併殺が理想だが、小川君は死球後の投球でも度胸よく落ち着いて高沢君を投ゴロに仕留め、1~2~3の理想的な併殺打で試合は終了した。


ネット裏で応援する近所の人々

「あそこでよく内側投げられた。あれは大したもんだ。右打者だったからよかったのかもしれないけれど…」と新井監督は小川君の度胸の良さを評価。「こういう試合ができれば、練習試合としての意味は大きいですよね」と喜んでいた。

一方、桐生一の福田治男監督が語ったチーム状況には、選手たちにとって練習試合の一つひとつが極めて貴重という想いが現れていた。

「甲子園ではちょっと万全ではない状態で戦ってしまって(1回戦で滋賀学園に5-9で敗退)、春季県大会も早い段階で負けたんですよ(3回戦で高崎経済大附に敗退)。それで3年生たちを呼んで、チームを解体して1、2年生をもっと入れてチームを変えていくということを伝えたんです。そうしたら3年生たちがもう一度やらせてくださいと言ってきた。今はその気持ちに賭けています」

終盤は練習試合とは思えない手に汗握る展開で、訪れたファンや両チームの保護者たちも十分に堪能していた。
《手束仁》

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