【小さな山旅】雨が似合う寺…雨引山(3) | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【小さな山旅】雨が似合う寺…雨引山(3)

オピニオン コラム
紫陽花の花が見事。毎年梅雨の時期には「アジサイ祭り」が開催され、夜にはライトアップを実施。
  • 紫陽花の花が見事。毎年梅雨の時期には「アジサイ祭り」が開催され、夜にはライトアップを実施。
  • 13時半に御嶽山を登り始めてから、2時間半。雨引観音への分岐で、16時を知らせる鐘の音が聞こえてきた。
  • それから10分ほど下山して、雨引観音(雨引山楽法寺)到着。雨だというのに、参拝客の数が多かった。
  • 本尊である延命観音菩薩は秘仏であり、拝観料が必要。
  • 2層の多宝塔は珍しいらしい。
  • 境内を自由に歩き回るクジャク。
  • 色とりどりの紫陽花の花が、雨引観音を彩る。
  • 雨引観音の入口。
雨引山を下山していると、ゴーンと鐘の音が聞こえてきた。16時を知らせる楽法寺(通称:雨引観音)の鐘の音だ。この鐘の音の大きさが、時刻を知らせるとともに、雨引観音が近いことを知らせてくれた。

雨引山の中腹にある雨引山楽法寺こと雨引観音は、西暦587年、法輪独守居士によって開山された。ここに祀られている本尊・延命観世音菩薩には、聖武天皇と光明皇后の安産祈願が成就したいわれがあり、安産・子育てのご利益で有名である。百観音巡礼の坂東三十三観音のひとつ、坂東24番札所でもあり、関東地方屈指の霊場である。

鐘の音を聞いてからほどなくして、雨引観音にたどり着く。雨だというのに、結構な数の参拝客の姿があった。当然家族連れやカップルが多く、どうやら登山者は筆者ひとりである。雨合羽を着込んでザックを背負った人間は他にいなかった。参拝客の数からも、ここがご利益のある寺であるとわかる。だが、独り身の筆者にはまるで縁がないように思い、参拝はしないでぐるりと歩くだけにした。

境内には、クジャクが野放しで飼われていた。クジャクなど動物園で見た程度で、ここのように自由に動き回る姿を見るのは初めてであった。羽を開け、開けと念じながら、カメラのレンズ越しに凝視したが、クジャクの羽は開くことがなかった。

寺の外に出ると、アジサイの花が咲いていた。梅雨のシンボル・アジサイは、ここ雨引観音のシンボルでもある。雨引観音は雨が似合う寺だと思う。名前からして似合うのだが、境内に咲き誇るアジサイの花が雨のイメージをより濃く植え付けていた。

これから帰ろうという時に、腹が減っていることに気付く。弁当も行動食も持たずに歩いていたので、登り始めてから何も口にしていない。駐車場のすぐ傍らにある、野菜も売っている民芸品の店で何か食べ物を買うことにする。トマトをひとつ所望したいと店員に申し出たが、バラ売りはしていないとやんわりと断られた。ならば、袋に6個入ったトマトを買うしかない。何故だか猛烈にトマトが食いたかったので、6個入りの袋に入ったトマトを買った。

トマトを丸かじりしながら歩いて帰る。途中で犬の散歩をしているおばさんとすれ違う。犬は私が食べているトマトを目掛けて走り寄ってきたが、筆者はすました顔でそれをひらりとかわした。トレイルランニングの練習をしている人には、何度もすれ違った。何台かの車が筆者の目の前を走りすぎていった。

雨の中、雨合羽を着込み、トマトを丸かじりしながら雨引観音を後にする筆者を見て、すれ違った人々は何を思ったであろう。雨合羽の中には、カメラがたくしこんであったので、腹の位置より少し上のあたりがカメラの大きさ分だけ膨らんでいた。

その姿は、見ようによっては妊婦のように見えたかもしれない。もしかして、雨引観音のご利益によって、男である筆者でさえ子を授かってしまったのでは…などと思われてはいないだろうか。

そのような要らぬことを考えているうちに、ひとつ目のトマトを食べ終わり、ふたつ目のトマトに手を伸ばした。田園風景が広がる道に出た頃には、3つ目のトマトを食べ終えていた。
《久米成佳》

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