【小さな山旅】低山から見る雲海…奥久慈男体山(3) | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【小さな山旅】低山から見る雲海…奥久慈男体山(3)

オピニオン コラム
奥久慈男体山、岩場の展望台から雲海を臨む。低山とはいえ、条件が整えばこのような景色を拝むことができるのだ。
  • 奥久慈男体山、岩場の展望台から雲海を臨む。低山とはいえ、条件が整えばこのような景色を拝むことができるのだ。
  • 登山開始。民家の脇を通り抜ける。
  • 分岐。ここから健脚コースが始まる。
  • 最初の鎖場に出くわす。
  • だんだんと岩が増える。
  • 鎖場その2。急な斜面の岩場を、鎖を片手に登る。
  • 岩場の展望台から雲海の景色その1。
  • 岩場の展望台から雲海の景色その2。
さて、ジマさんという心強い仲間を得た筆者だが、苦手な山への挑戦とあって前日は緊張のためなかなか寝付けなかった。

リベンジをしなければならない、重要な登山の日に寝不足とは。このバッド・コンディションであの鎖場に挑み、足を踏み外しでもしたらどうしよう。ひょっとしたら、生きて帰って来られないかもしれない。しまった、遺書を書くのを忘れてしまった! などと要らぬことを考えながら、登山口に向けて歩いた。

◆不安と期待を胸に抱き、登山開始!

だが、寝不足であっても意識はしっかりしていた。連続鎖場へ挑む緊張感が、寝不足の頭を冴えさせたようである。それに加え、大円地の駐車場で出会った一人の男性の話が、とある期待を筆者に抱かせ、寝不足の寝の字も出ないくらいに気分を高揚させていた。

「今日はね、雲海が見られるかもしれないと思って来たんですよ」

その男性は言った。

昨晩は雨が降り、登山日の午前中は晴れの予報。そんな気象条件が整った日の早朝は、標高653mの低山からでも雲海が見える可能性があるというのだ。まさかね、と思いつつも、雲海に出会えるかもしれないという期待は、知らず知らずの内に大きくなっていった。

◆岩場の展望台から、雲海を臨む。

大円地の駐車場から蕎麦屋の前を通り、民家の脇を通り抜けると、一般コースと健脚コースの分岐を迎えた。その分岐を左に折れると、因縁の健脚コースが始まる。
途中までは林の中を通る普通の登山道。しかし、程なくして木の根が張った急な斜面に「鎖」が現れた。最初の鎖場である。えいやっと気合を込めて鎖を掴む。戦いの火蓋がきって落とされた。

最初の鎖場を乗り越え、更に奥に進むと、周囲の景色に変化が現れる。ゴツゴツとした岩が所々に見え始め、今にも鎖が現れそうな雰囲気になった。来るか来るかと身構えながら歩いていくと、岩場に垂れた鎖に出くわす。

先ほどよりも急な登り。手を使わないと、とてもじゃないが登れない。這うようにして、第2の鎖場を乗り切った。そうして、いくつかの鎖場を登りきると、見晴らしの良い場所に出た。岩場の展望台だ。

岩の上に立つと、驚くべき風景が待っていた。

下界が雲に覆われている。海のように広がった雲から、ちょこちょこと奥久慈の山々が頭を出している。

「雲海だ」

ジマさんと筆者は、岩の上に呆然と立ち尽くし、その光景に見とれた。

「富士山からの景色に匹敵しますよ、この景色は」

先週に富士登山に行ってきたばかりのジマさんは、そのように男体山から見る雲海を称えた。男体山の標高を考慮すると、それ以上の高度感がある。その胸がすくような風景は、しばしの間鎖場のことを忘れさせてくれた。

低山から見る雲海。本格的な鎖場を控えた筆者たちを励ますかのように、低く広く、雲が広がっていた。
《久米成佳》

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