小さな春を感じた休日の早朝。その日は山に登ることに決めていたが、どこに登ろうか決めかねていた。近くの山もいいのだが、せっかくだから少し遠くに足をのばしたい。大きな山や北部の山は、まだ雪が残っているだろうから、やっぱり小さな山がいい。このところ、仕事で脳が疲れているから、長い距離を歩いてリフレッシュしたい。そんな筆者の要望を満たしてくれたのが、今回登った宇都宮アルプスであった。
宇都宮アルプスとは、栃木県の宇都宮市北部にある篠井富屋連峰を指す。「ご当地アルプス」といわれる山の連なりである。
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栃木県の大平アルプス
アルプスといえば、ヨーロッパの中南部にある大山脈が本家本元。最高峰のモンブラン、マッターホルンなどの山名は、山に登らない人でも知っているだろう。
日本の北アルプス・南アルプス・中央アルプス(日本アルプス)は、このヨーロッパのアルプスに倣って名付けられているというのは、言わずもがなの事実であり、さらに日本アルプスに倣って、全国各地の山脈に愛情を込めて付けられた呼び名が「ご当地アルプス」である。
■ご当地アルプスの魅力
ご当地アルプスの数は全国に50ほどあるらしい。以前に登った茨城県の日立アルプスや、神奈川県の鎌倉アルプスも「ご当地アルプス」に含まれている。ご当地アルプスのほとんどが、低い山の連なりであり、気軽に長い距離を歩けるのが良いところだ。
ご当地アルプスを歩く際は、当然縦走することになる。低山は1山だと体力的に物足りないことが多いが、縦走すればかなりの充実感を得られる。
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鎌倉アルプス・大平山の頂上
歩いた後は、近場の温泉へ。山の後の温泉は、格別過ぎるほどに気持ちがいい。風呂上がりには、その地方のおいしいお店で腹を満たす。帰りはその地方の風景を眺めながら、ゆっくりとドライブ。はたまたちょっと本屋に立ち寄ったりして、地域情報誌なんかを買ったりして。山と一緒に「ご当地」の町も満喫。これらの登山後の楽しみも、「縦走」という行為の後だとより満足度が高い。
自然、運動、食事、温泉……。並べただけで、リフレッシュできそうな言葉たちである。ご当地アルプスならば、登山時間もそれほど長くはないから、これらが1日のうちで、日帰りで楽しめてしまうのが魅力だ。
何より「アルプス」という呼称が魅力ではないか。アルプスの少女ハイジ、南アルプスの天然水、アルプス一万尺……などなど、人は「アルプス」という言葉に惹きつけられる。宇都宮アルプスはもとより他のご当地アルプスも、ハイジの舞台でなければ、平成の歌姫が出演するCMが撮影されてもいない。ましてや一万尺などありはなしない(宇都宮アルプスは1300尺程度)。それでも、たくさんの人々がご当地アルプスに登りにいく。
つまり、人々は「アルプス」に憧れているのだ。
そして、「アルプス」に恋をしているのだ。
ご当地アルプスに倣って、このコラムの名前を「小さなアルプス旅」とでもすれば、もっと読者も増えるだろうか。