ハイキングを兼ねた観光客が散策するルートだが、最近そこに現れたのがトレイルランナーだ。
ボクがトレイルランを始めたのは30年前だ。鎌倉にある自宅の裏山は縦横無尽に旧道があって、そのほとんどは雑草におおわれ、倒木が随所にあった。主要道となる尾根沿いは観光客でいっぱいだったが、くもの巣だらけの廃道を歩く人はいなかった。
このあたりは古都保存条例によって保護されているため、土砂をむやみに移動させてはいけないが、大雪で倒れた杉の木を移動させたり、里山ボランティアに登録し下草を刈ったりして整備していった。
消滅しそうな旧道を毎日のように歩いて踏み固めていくうちに、近隣の人も散歩に使うようになって、いつしか立派なトレイルになった。

大自然の中を走るトレイルランは、副交感神経の動きを活発にして心のバランスを取り戻すことに貢献してくれる。ストレスの多い都会人こそトレイルラン、あるいはトレイルウォーキングはとても効果的で、緑の中を走り抜ける爽快感が自律神経を整えることに効果を発揮するのである。
しかも、トレイルランとはいっても歩きでも全然かまわなくて、自分の体力レベルに応じて運動強度を調整できるメリットがあり、精神面だけでなくフィジカルにも効果を発揮してくれる。

鎌倉のハイキングコースは、本格的な装備をして自然を楽しむ人がいたり、週末観光がてら、ちょっと足を伸ばして森の中に踏みいる人もいる。
さらには、誘われるままにハイヒールや、正月三が日には晴れ着姿のまま無謀にチャレンジする女性も見かける。体調が悪化しても足をくじいても、トレイルを外れて住宅地に降りれば、タクシーも拾えるし救急車も呼べる。世界中のどこにいってもそんなトレイルルートはそうないはずだ。

そして昨今、ハイヒール女性と晴れ着姿の方々が歩いている脇をトレイルランナーが猛然と走り始めたのである。たいていの人は「ここは走るとこじゃない」と感じるし、「練習したいならもっと山奥を走ったらいいのに」と思う。
でもボク自身も彼らの気持ちは分かる。「鎌倉で走りたい」のである。一般ハイカーが息を弾ませている脇を、息をゼーゼーいわせながら決死の形相で追い抜きたいのである。
当然衝突が起き、鎌倉市議会でも問題となった。審議の末、鎌倉を舞台としたトレイルラン大会に中止要請を発令。これによってイベントの継続開催は困難になったが、当然である。鎌倉のような都市部の里山は地権者がいて、これらの方々の承諾もなしに興行しようとするからだ。
「全国サイクリングコース」といったガイドブックはいくつも刊行されるが、「鎌倉トレイルコース」は無理。私有地を紹介することができないからだ。

幸いなのはトレイルランの第一人者らがこの問題を憂慮し、モラル向上の啓蒙に乗り出し、多くの愛好者もそういった情報をキャッチし、従来から存在したハイカーとの共存を真剣に考えていること。
運動レベルの高いトレイルランナーは、いわば里山における強者。ならば、オトナのモラルをもってセンスよくトレイルを疾走するのがスマートというもの。
(心がけたいオトナのモラル)
●ハイカーの姿を見たらすぐに歩いて、あいさつをしながらすれ違ったり追い抜く。
●路面を傷めたり、ルート逸脱して草木をキズつけない。
●寺社の拝観や店舗の入場の際は、ウエアやシューズのドロを落とす。
鎌倉のトレイルコースは尾根道のメインコースだけではないので、ハイカーに遭遇しないようなローカルトレイルを探すのもオススメだ。