「趣味と仕事は一緒にしちゃいけない」と言われるので、ボクの趣味はトレイルランだ。
トレイルランを始めたのは30年ほど前。鎌倉にある自宅の裏山は縦横無尽に里山の旧道があって、主要道となる尾根みちを除けばハイカーに遭遇することはない。このあたりは古都保存条例によって保護されるので土砂をむやみに移動させてはいけないが、大雪で倒れた杉の木をどかしたり、里山ボランティアに登録して下草を刈ったりして整備。消滅しそうな旧道を毎日のように歩いて踏み固めていくうちに、近隣の人も散歩に使うようになって、いつしか立派なトレイルになった。
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野山を走るトレイルラン
かつてストレスで精神面の調子が悪くなったときも、トレイルランのおかげで元気を取り戻すことができた。自転車メーカーに関する書籍の3冊目、その会社の機能路線を強力に推進した故・三代目社長のストーリーだった。故人にゆかりのある人たちを取材していると過去の思い出に感極まって涙を流すほどで、今でも三代目はみんなに慕われていることが分かり、最後は「いい本にしてください」と必ず念を押された。
そのプレッシャーがストレスとなったのだが、大自然の中を走るトレイルランは副交感神経に作用して心のバランスを取り戻すことに貢献してくれた。おかげでなんとか3冊目も完成させることができた。もちろんスポーツそのものも自律神経のバランスを保つのに効果を発揮するが、緑の中を走り抜けるそう快感、自分の体力レベルに応じて運動強度を調整できるアウトドアスポーツは効果をさらに引き出してくれた。
■トレイルで原稿の書き出しを思い描く
その後も、ちょっと書きにくい原稿に手をつけるときは、トレイルに出向いて構想や書き出しを思い描きながら足を進めた。運動強度が強すぎるとうまく文章がひらめかないので、かなり負荷を抑えて歩くようなペースに。そうこうしているうちにボクも50代になり、トレイルランは「トレイルあるき」になってしまった。
第1回アメア・ドゥースポーツコミュニティでトレイルラン体験企画があって、サロモン専属トレイルランナーの大瀬和文さんにさまざまな極意を教えてもらう機会をもらった。上りや下りの走法はもちろん、最新ギアの開発コンセプトや特徴を聞いた。ボク自身がトレイルランシューズの選び方に試行錯誤を繰り返していたので、じつに興味深かった。
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各社メディアが集まったトレイルラン体験企画
自転車もそうだが、トレイルランはひとりで黙々と走る人もいる。言葉を換えればひとりでも走れるという特徴がある。そういったシーンでは禅問答のようにひとつの命題に深く思いをめぐらせる時間がたっぷりとある。他界された森幸春さん(※)もそうだった。1日何時間も自転車に乗りながらいろんなことを深く探求していった。だから一般サイクリストからどんな質問を投げられても的確に答えられた。
冬は野山の葉が落ちて、足もとまで太陽光が降り注ぐ。トレイルランや散策には絶好のシーズン。冷たい北風が吹いても木々がそれをさえぎってくれ、ちょっとペースを上げれば汗が額に浮かぶ。これからがアウトドアスポーツのベストシーズンだ。
※:森幸春さんは1980年代に活躍した日本の自転車選手