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無秩序、無統制、一寸先は闇。ロードバイクの定義そのものが不明瞭になりつつある現在、カリスマブランド・ピナレロが旗艦ドグマを早くもアップデート。その進化の方向性とは?フレーム素材をグレードアップしつつ大幅に価格を下げた新型の存在は手放しで肯定できるものなのか?前作ドグマ2を同時に借り出すことで実現した、注目の新旧フラッグシップ対決!
(text:安井行生 photo:我妻英次郎/安井行生)
ロード界が再び混沌としてきた。トップモデル交代時に見えてくる進化のベクトルは、そのブランドが 「今どこを向いているのか」 を教えてくれるが、例えば2013モデルイヤーはこんな感じだ。
トレックはドマーネで 「その手があったか」 と他ブランドを悔しがらせ、新型マドンではKVF形状とダイレクトマウントブレーキを搭載してロードバイクの新たなベンチマークを作った。スペシャライズドはルーベのフォーク規格をフレームサイズごとに変更し、剛性バランスの最適化を徹底的に追求してきた (冷静に考えるとすごいことだ)。キャノンデールはエボという素晴らしいフレームを作り、それを元に素材のグレードを変えて松・竹・梅を作った。コルナゴはロードバイクのディスクブレーキ化にいちはやく踏み出した。どこも、今までとは異なる、しかしバラバラの方向を向いて走り出している。
ピナレロはどうしたか。ドグマに使用されているカーボンの中で最もいいグレードのものを、60トンから65トンに上げたのである。あまりにも予想通りの手法だった。素材のグレードアップによる高剛性化もしくは軽量化 設計方針としては決して新鮮味のあるものではない。
その新作は、ドグマ65.1シンク2と命名された。発表会においてプレゼンターは、「剛性は従来モデルですでに十分。不必要な高剛性化は行われていない」 とコメント。素材のグレードアップによる性能余剰分は、軽量化方向に使うことにしたのだという。
トレックもキャノンデールも超軽量フレームを開発してきたことが影響したのかと思いきや、担当者によると 「Di2やEPSによるコンポの重量増加分を吸収するためのものではないか」 とのことだ。どの程度軽量化されたのか、フレーム重量は何gなのかは発表されていない。
もちろん65トンが使われているのはフレームの一部である。専門誌などは 「フレーム素材に○トンカーボンを採用し…」 という書き方をするので誤解している人がいるかもしれないが、全てがそのグレードでできているわけではなく、使われているのは一部である。当然、どこにどのくらい使われているのかは発表されていない。様々な種類のカーボンを適材適所に使い分けており、その中で最高のものが65トンだというわけだ。
ベースは前作ドグマ2でフレーム形状はほぼ同一。車名末尾の “シンク2” とは、アウター受け部分の小物を交換式として、一本のフレームで機械式コンポーネントと電動コンポーネントの両方に対応していることを意味する。各ブランドがそれぞれの新しい方向性で味つけしていくなか、ピナレロはこのドグマ65.1シンク2で激動の2013年シーズンを戦うことになる。
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2008年、発売されたばかりのプリンス・カーボンに乗った。それからまだ5年しかたっていないのに、ピナレロのトップモデルにはもう5台も試乗している。近年のピナレロのモデルチェンジのスパンはどんどん短くなっているが、とくにドグマ2のモデルライフは短かった。つい一年前、ピナレロはドグマのフレーム形状を変更し、「空気抵抗削減」 と 「剛性バランスの向上」 という大改革を施したばかりなのである。
まずは絶対評価から。ドグマ65.1、筆者が今まで乗ってきたロードフレームの中で、間違いなく1、2を争う超高性能車である。恐ろしく速く、恐ろしく硬い。いつもこれに乗っていたら感覚がおかしくなるだろうな、と思うくらいに。全速度域で見せる加速はどこまでも鋭く淀みなく、トルクの高低、速度の高低を問わずに凄まじくいい。レーシングフレームとしては、もう文句のつけようがない。筆者はつい数か月前、2012年モデルのボッテキア・EMME2に乗って 「今の時代にここまで硬く過激なフレームがあったのか」 と驚いたばかりだが、それに匹敵するほど潔く運動性能のみにフォーカスした、超高性能フレームである。
しかし、ヘッドチューブやチェーンステーなどの重要なチューブの途中に穴を開ける (もしくは凹みを設ける) というシンク2の設計は、トレックのデュオトラップセンサー共々、どうも好きになれない。パナソニックのエンジニアは、「パイプの途中にワイヤー用の穴を開けたりボルトの台座を付けたりすると、パイプの性能が出にくくなります。下手に加工を入れるとパイプの自然な性能を殺してしまうんです」 と言っていたが、カーボンだからこそできる芸当なのだろう。ピナレロやトレックに限ったことではないが、電動対応やさらなるワイヤー内蔵化によって、各部に大穴を開けたフレームが多くなってきている。それは理系の人達にとってはあまり気持ちのいいものではないだろう。
また、無駄に涙滴断面なシートピラーも好きになれない部分だ。フレームとのクリアランスが大きすぎて締め付けトルクが必要だし、うっかりするとサドルが曲がったまま付いてしまうこともある。専用ピラーしか使えないため、サドルのセットバックも確保しにくい。
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では、ドグマ2との相対評価に移る。ドグマ2とドグマ65.1とで迷う人は少ないかもしれないが、「トップモデルをどのように進化させてきたか」 を知ることは、そのブランドの方向性を語るにも、ロードバイク全体の進化を語るにも、重要なことだと思っている。横軸の評価 (同時期のライバル他社他車との比較) も大切だが、縦軸 (異世代同ブランド同車種の進化の方向とその度合) も重要なのだ。今回は、2012年モデルの同サイズのドグマ2を同時に借り、同一条件で乗り比べた。
「軽量化しただけで剛性はさほど変えていない」 とのことだったが、剛性は明らかに65.1の方が高い。加速のキレがよくなり、ハンドリングの鋭さが向上し、豹変したと言いたくなるほどキビキビとした動きを見せるようになっている。我々が今までのピナレロに抱いていた 「ドッカン加速」 というイメージは変わり、ゼロスタートの瞬間から最後まで軽快感に富む。以前、「快適ラインを担うKOBHの登場によってピナレロのピュアレーシングモデルにさらに過激な味付けが施されるかもしれない」 と書いたことがあるが、その予見がやっと的中した、と思った。
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